騒遇騒事





なんなんだ!いったい!


特に用も無く、京の町をぶらついたのがいけなかったのか。

暫し足休めに、と腰を降ろした小さな茶屋。
店先の簡易な長椅子に腰掛け、出てきた茶と茶請けを楽しみながら、日差し避けの赤い傘は綺麗だ…なんて思えていたのは束の間だった。

「今日はちっとばかり暑いな」
「あ、このお団子美味しいねー」

けっして広いとは言えない長椅子に、男三人で腰掛けるこの光景は如何様なものか。
右端と左端には、新選組の土方と沖田。
最初は確かに一人だったのだ。椅子の真ん中に腰掛け、たまにはと、軽めの甘味に、茶に、と休息を楽しんでいた風間の左右に、有無を言わさずこの二人が腰を降ろし、現在の状況に至る。

なんなのだっ!!いったいっ!!

静かな休息を邪魔されたのと、往来を行き交う人々がたまにちらちらとこちらを見やるいたたまれなさ。
自然に風間の眉間には、僅かに皺が寄り始める。

「風間」

横から聞こえた名を呼ぶ声に、反射的に顔を向ければ、いつものいけ好かない笑顔を浮かべた沖田が団子を目の前に差し出していた。

「はい。あーん」
「………」
「このお団子美味しいよー、はい。あーんして。風間」

口元へと団子を寄せて来るのに文句を言ってやろうと微かに唇を開いた瞬間、後ろから伸びて来た手が目の前の沖田の手首を捉え、そのまま力ずくで下へと落とした。

「…総司、てめえなにしてやがる」
「やだなあ、見てわかりません?このお団子美味しいから風間にも食べほしいなあ、って」
「ああ、そうかよ。風間、俺はこっちの葛餅の方が美味いと思うぜ」

掴んでいた沖田の手を離すと、今度は反対側の土方が、小皿の上に乗せた涼し気な菓子を目の前に差し出してくる。

「…土方さん。邪魔しないでくれます?」
「どっちが邪魔だ」
「どっちも邪魔だ!」
「せっかく、風間と茶屋で出会えたっていうのに邪魔してくれて、本当、空気読めませんね」
「おい、こら!貴様らが勝手に…」
「そらこっちの台詞だ。てめえこそ、空気読んだらどうだ?」
「俺の話を聞けっ!」
「……土方さん、仕事溜まってるんじゃないですか?さっさと戻ったらどうです?」
「てめえこそこんなところで油売ってんじゃねぇよ!」
「僕がどこで何してようと僕の自由でしょ」
「こちとら、部下の管理も一応仕事でなあ」
「貴様ら内輪揉めは余所でやれっ!!」

口元はまだ笑みを保っているものの、風間を挟んでいる二人の目は笑っていない。
むしろ互いの眼光は鋭さを増し睨みあっている。
当然ながら、風間も不機嫌を露わにしているので取り巻く空気は険悪で、互いに触発しあっているせいで、声も大きさを増してきていた。
ここは天下の往来。茶屋の店先。
そんな場所で、男三人が不穏な空気を発散していれば人目を引くのは当然のことだ。
この場をさっさと立ち去ろうと思い、風間は往来へ顔向けた。
矢先、行き交う人々の中、店先からは少々離れた場所に人影を見つけた。
人波の中から抜きん出て、遠目からでも目立つその体格の良さはよく知る者。

「あ…」

しっかりとこっちを見ていて、あまつさえ目があったので声を掛けようと口を開いた瞬間、何も見えていないとばかりにその人物は通りの方へと顔を向けた。

「!?」

さらりと視線を外し、何事も無かったように歩みを進めるその背を、少しの間呆然と見ていたが、湧き上がる感情と共に風間は椅子から勢い良く立ち上がった。
いきなり荒々しく立ち上がった風間に、今度は土方と沖田が険悪な雰囲気もどこへやら、呆気に取られて見上げた。
そのまま、怒りを露わに足早に往来へと消えていく風間をただ呆然と見つめる。
はた、と二人が我に返った時には、風間の姿は人波に飲まれ後だった。
















標的に定めた、目立つその後ろ姿に追い付くと、風間は着物の端をむんずと掴んだ。
後ろへ引っ張られる感覚に足を止めて振り返れば、一族の頭領が凄い形相で睨み上げている。

「あーまーぎーりーぃっ」
「………なんですか?」
「貴様、俺と目があったな?」
「…まあ」
「ならばどういう了見だ!」
「…いえ、…関わりあいたくないな。と思いまして」
「きっ、さまあぁっ!!」

飄々と表情一つ変えずに本音を口にした天霧は、目の前で、ぶちっ、と何かが切れるような音を聞いた気がした。













100712

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