出会ったのは僕の方が先
君と過ごした時間が長いのだって僕


なのに

なのに

なんで僕じゃないの



ねえ………






coldtearsrainy




出会った頃の事
今だって鮮明に覚えてる

君が何て僕に言ったか、今でも言えるよ

君と過ごした年月は僕にしっかりと刻まれてる


なのに
いつの間に


そんな人がいたの


いつ出会って
いつそんな気持ちを持ったの


僕の知らない君が

いつからいたんだろう…





外は雨。
肌寒い空気が体を撫でて、体温を奪っていく。
冷える体はまるで僕のようだ。
天気予報を見なかった今朝、雨が降るなんて知らなくて、折り畳みを常備してる程マメでも無い僕は当然雨に降られた。
お目当ての雑誌を見つけられなかった本屋で、僕は君を見つけて。



君を彩る色素は淡くて、相変わらず綺麗だ。なんて思う。



興味も無い、手芸関連の本棚の前なんかに立ってるし。
その横顔を見ただけで、悟ってしまえる僕は、どれだけ君をみてきたか改めて思い知る。

「千景。こんなとこで偶然だね」

横に立って声を掛ければ弾かれたように顔を向け、驚きに緋色が僅か見開かれる。

「雨降ってきちゃってさ。千景は傘持ってる?」

ふるふると首を振れば、金が揺れる。

「まだやみそうもないし、ここじゃなんだから、一緒にどっかで雨宿りしない?」

誘いを掛ければ静かに頷いたから、二人で雨宿り先を探して、本屋の近くのカフェに入った。


暖かい電球色に満たされる静かなカフェで、くるくると頼んだコーヒーを混ぜる。

「相変わらずだな」

砂糖やミルクを入れて、すっかりほの甘い色になったコーヒーを見て、小さく苦笑を漏らす君は、相変わらずで。

「お子様味覚だって笑いたいの?」
「いや、変わらんなと思ってな」

わざとぷくっと頬を膨らませる僕に、口許に微笑を引く。
その笑みが好きで。
僕はちょっとだけ得した気分とかになるわけで。

「そうそう味覚なんて変わりません」



演技がかった口調で言えば、また少し君が笑う。



変わらないよ
何も変わらない
僕はずっと変わらないままだよ



君への想いも



僕自身を冷やすような雨さえも、君とこうしていられる時間をくれたなら、感謝するくらいだ。





「ねえ、そう言えばさ…」

最近流行りの映画の話を持ち出してみたり、他愛ない話を振る。
気丈で、いつも真っ直ぐ前を見つめる自信家の君の視線が、テーブルの上に落ちたままで。
だから、僕はどうでもいいくだらない話しを君に振る。

「それでね、この前…」

相槌を打つ君に僕はただ話し続ける。
緋色は相変わらず僕を映さず所在なげで。


時折テーブルの端に置いてある携帯に視線だけがすべる。



君の事だから、その携帯は



鳴らない
震えない



でも、気にしてる理由を、僕は何一つ聞かなくてもわかる。



その全てがとても切なくて……




なんで…僕じゃないんだろう…

君の心が囚われた後
君は僕に彼を紹介してくれたね

それは、酷く痛くて、とても嬉しかった


君にとって僕は、大切な存在なんだと思ってくれてた証拠なわけで

君にとって僕は、特別な存在ではなかった現実なわけで





彼になりたい


なんで…彼になれないんだろう…





音無く光る紫のイルミネーション。
手を伸ばさない君。

「千景。携帯…」

返らない答え。

「…それ、メールじゃなくて電話でしょ?出なよ」

落ちてた紅が僕を映して、僅か戸惑って、携帯を掴むと席を立った。
カフェの出口で話してる君の背中を眺める。



彼を知ってる
酷い男でないから困る


席に戻って来た君が口を開く言葉を消して、言葉を重ねる。

「それでね、さっきの続きなんだけど…」

言葉を飲み込むのを確認して、意味の無い話しを僕は続ける。
なんだっていいんだ。内容なんて必要ないんだから。



そうしていれば
ほら、彼が来る



僕の視線の動きに気付いて君が振り返る。
彼を見て思わず立ち上がるその所作に、僕の心が軋む。
紫苑の瞳が僕を見て、少し会釈して。
詫びるようなその瞳と態度が、彼の誠実を現していて。


傘をさして来たはずなのに、濡れている両肩、袖口。
足元だって跳ね返った雨水で随分と汚れていて。
片手に握り締めてるのは、綺麗に纏められた乾いた傘で、それは君の分で。


ここまで走って来たんだってわかる。
彼が君を想うその強さをまざまざと見せられて。



「千景…」

彼が呼ぶ君の名は柔らかくて優しくて。
緋はまた落ちて、立ち上がったまま動かない君。
彼は黙ったまま静かに君を見てる。
その優しい濃紫色を君は見ていなくて、僕だけが気付いていて。

「千景」

名を呼んで立ち上がった僕に、やっと顔を上げた。
近付く僕を見つめる、揺れる紅が意味するものを簡単に読み取れる。



いやになる程僕には君の言葉なんかいらなくて
わかってしまうから苦しくて



いっそ、言葉にして、口に出してもらわなきゃ何もわからなければいいのに…






「ほら、帰りなよ」

そう言って背中を押す。
彼の傍に寄るように。

向かい合うように並ぶ二人
俯いた君の横顔は、見つけた本屋の時とは違って
見つめる彼の横顔は酷く優しくて



少し安心して

そんな自分が滑稽で





緋色がこちらを向いたから

「僕はもう少しゆっくりしてくから」

手を振った

「じゃあね、バイバイ」


うまく笑えてるかな



なんで


笑ってるんだろう









彼に静かに促されて出ていく君。
背に添えられた彼の手の動きにさえ、優しさが、想いが、滲み出てて…




どうして


あの位置にいるのが
僕じゃないんだろう














「…雨…やまないなぁ…」
















110604

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