陥落鬼ごっこ




*土方氏が素晴らしくキャラ崩壊です





早々に仕事を片付けて、本日も滞りなく、土方は京の都を頻繁に歩く
目的は只一つ
視界の端にきらびやかな色が映り込まないかと…



人並みが行き交う道を視線を彼方へ此方へと向けていく。
土方には、ここのところずっと捜しているものがあった。

「神出鬼没とはよく言ったもんだ」

捜している者は、風間千景。
敵対する薩摩に組し、あまつさえ人ではなく鬼である。

「そういやぁ、なぁんも知らねぇな…」

知っているのは風間千景という名前。
純潔の鬼であること。
薩摩に組し、恐ろしく強いということ。
そんなものだ。



初めて刀を交えたあの時。
ざわざわとざわつく心は、当初嫌悪感かと思っていた。
何度となく顔を付き合わせ、刀を交え互いにぶつかり合う度、それは何か違うような気がし始めた。


互いに立場が違い、見据える方向も目指すものも違う。
けれども、それに掛ける信念も誇りも、己を恥じぬ心も。
黙っていても刀を合わせれば伝わってくる。
人と鬼という違いがあったとて、そこにしかとある矜持は同じなのだと気付いた。


いつしか、風間と刃を交える度、言い知れぬ高揚感に満たされるようになった。
それは、戦闘狂としての生死の寸前に立たされる高揚感ではない。
強い者との己の腕の強さを競うためのものでもない。


なぜなら、対風間でなければ味わえないからだ。


それに気付いてから、それはそれはもう、がっつりと悩む日々が続いたのだった。





「収穫無しか」

辺りは濃紺に包まれ始めている。
さすがに帰らなければと、屯所の門まで戻ると土方は小さく肩を落とした。
無意識にでも溜め息が出ることに、土方自身もう驚くことはない。


とっくのとうに腹は括ったのだ。





今日も今日とて風間を探し歩く。

少し先に見える茶屋までさしかかれば、素早くその店先の椅子に腰掛けた。

「よう。風間」

紅色の瞳を驚きに僅かに開いて、風間は隣に座った土方を見た。
次いで、笑みを湛えるその顔を眉を潜めて睨む。

「なあ、風間…」

鋭い視線を気にもとめず口を開く土方の横で、手に持っていた茶を一気に飲み干すと、風間は早々に席を立った。

「あ!おい、ちょっと待てって」

追い掛けようとした寸前、注文を聞きに来た茶屋の店主に呼び止められ、目を離した隙に風間の姿は人波に消えてしまっていた。

「はぁ…くそっ、せっかく見付けたのに」

溜め息と共に土方はがくりと肩を落とす。
それでも、会えたことに自然に顔は綻んでいた。
探し歩いていれば無駄ではない。と証明されたわけで、そう思えばなにやら俄然やる気が出てきたのだ。

「よし!」

土方は己の頬を両手でぱちんと叩くとまた町中へと歩き出した。





そんなこんなな日々は続き。
相変わらずに土方は風間を探し、見付けては風間に撒かれるという、奇妙な日々が続いていた。



「おう。昼飯か?」
「ごふっ!」

飯屋の奥の一角。
腹を満たそうと昼食を取っていた風間の席の真向かいに、当然と腰を下ろし声をかけてきたのは笑顔の土方だ。
口を付けていたお浸しをおもわず吹きそうになって、風間は慌てて自分の口を手で押さえて無理矢理飲み込んだ。

「おい、大丈夫か?」

胸元を叩きながらお茶で流し込んでる姿に、土方が心配そうに声を掛ける。
なんとか落ち着いたところで、ぎろりと紅が睨み付けた。

「誰のせいだ」
「? 俺のせいなのか?」

なぜ?と言わんばかりの顔に風間は頭痛がしそうだった。
ここのところの数日、いや数ヵ月、場所を問わず声を掛けられ、肩を叩かれ、まるで旧知の仲のように接してくる笑顔の土方。
正直風間にとっては、その行動の真意が読めず不気味で仕方ないのだ。

「出ていけ」
「なんでだ?俺だって腹へってんだぞ」
「ならば席を移動しろ」

昼時から幾分か過ぎた刻限な為、飯屋の席は所々空席が目立つ。
一番離れた席を風間が示せば、一度そちらを見てから不思議そうに土方が小首を傾げた。

「なんでだ?」
「これだけ空席があるのだぞ。何故相席せねばならん」
「相席ってぇか、一緒に飯食ったっていいだろ?」
「何故貴様と共に飯を取らねばならん」
「堅ぇこと言うなよ」

こちらの言い分など全く意に介さない、と笑う姿に怒りよりも不気味さが増す。
動く気配がないのなら、と店主に注文をしている土方を他所に、風間は早々に己の昼食を胃に納めることに集中した。





「まてよ!風間っ!」

土方を置いてさっさと飯屋を後にして僅か。
背後から大声で呼ぶ声に、撒けなかったか、と風間は深い溜め息を吐いた。
それでも無視し続けていれば、肩を強く捕まれ振り向かされた。

「まったく、毎度毎度無視しやがって。聞こえてんだろが」
「わかっているのならば、毎度毎度声を掛けるな」
「そりゃできねぇ」
「……………」

呆れ返った冷ややかな視線を、これでもかと露骨にぶつけても土方は全く気にもしない。
正直、何度か正面から対峙して切り捨ててやろうかとも思ったのだが、何故かそうする気になれなかった。
裏や、罠があるのではないかとの警戒もあり、ならば早々に切り捨ててしまえば杞憂も消えるかとも思った。
けれど、奇妙な不気味さに、何故か正面から向き合ってはいけないような気がしてならなく、今まで撒くという形をとってきていたのだ。

「……馬鹿馬鹿しい」

俯いた風間が吐き捨てるように呟いた言葉に、土方は風間の顔を覗き込もうとした。
瞬間、土方が居た場所に白刃が薙いだ。
咄嗟に後ろへと距離を取っていなければ、今ごろ真っ二つだっただろう。

「!!あっぶねぇじゃねぇかっ!」

ぎらりと煌めく刃と赤眼に触発され、土方も反射的に柄に手を掛ける。

「風間。なんのつもりだ」
「貴様を斬る」
「は?」
「罠があろうと裏があろうとこの際構わん」
「罠?裏?おい、なんの事言ってんだ?」

意味が分からない、という様の土方など気にもとめず踏み込んでくる。
甲高くも重い金属がぶつかる音が響く。

「風間!どういうつもりだ!?」
「それは此方の台詞だ!」

ぎりぎりと鍔迫り合いの最中、怒りを露にする風間と、対照的に困惑を見せる土方。

「何を企んでいる!吐けっ」
「はぁ?企む?さっきから何訳分かんねぇ事ばっか言ってんだよ」
「しらを切る気か。よかろう、貴様を斬れば全て片がつく」
「ーっ、だからなんか勘違いしてねぇか!?てめぇ!」

風間の刀が更に重みを増すのを、土方は力を込め反動も利用し弾く。
互いの間に再度距離が出来たとこで、土方は声を大きく上げた。

「勘違いだと?この期に及んでまだ言い逃れをする気か。見苦しいぞ!」
「あー、今のてめぇに説明したとこで無駄みてぇだな。やるってんなら受けてたってやろうじゃねぇか!」

怒声を吐き捨てる風間に、土方は何を言ったところで埒があかないと、攻撃体勢へ刀を構え直した。

「話を聞かねぇてめぇが悪ぃんだからな!簡潔明瞭にしてやろうじゃねぇか!」

じりっとお互いに踏み出す瞬間を計る、緊迫した空気が張り詰める。

「これで俺が勝ったら、風間!てめぇ俺のもんになれ!」

言うと同時に斬り込む土方の斬激を、風間は後ろに押される形でなんとか受け止めた。
反応が遅れたのは当然とでも言おうか。
土方が発した言葉に思考がついていかず、一瞬固まってしまったのだ。
再度の鍔迫り合いは、圧倒的に風間が押される形となった。

「土方っ貴様なんと!?」
「俺が勝ったらてめぇを俺のもんにする」
「は?」
「俺はお前ぇを殺す気はねぇよ」
「はあ?」
「愛しいお前を殺すわけねぇだろ」
「はあぁ??」
「愛してるぜ風間。早く負けて俺のもんになっちまぇ」

刀を挟み間近で顔を付き合わせながら、土方は、この現状に不釣り合いな柔らかな笑みを口元に浮かべる。
かたや風間は驚愕と呆然をまぜこぜに、言葉も失って大きく見開いた眼で土方を見た。
全く機能を果たさなくなった思考は、体の動きも鈍らせ風間の刀がじりじりと押され始める。
土方に至っては、これで風間を手に入れられるとあらば俄然やる気だ。
このままでは押し負ける、と思った瞬間、それは思考ではなく本能に近く、風間の刀に一気に力が掛かり、土方の刀を横へと薙いだ。
飛び退くようにして距離を取った風間の瞳は、変わらず見開かれたままだ。
今の一瞬の動きは、それこそ貞操の危機を感じとったというところだろう。

「チッ」

土方の舌打ちに、無意識に風間の背筋をぞわりとした感覚が駆け上がる。
一歩踏み出す土方の動きに、反射的に一歩風間が下がる。
しかりと刀を肩まで上げて構え直す土方に対し、風間はくるりと踵を返した。

「あ!おいっ!風間っ!?」

唐突に向けられた背に、後ろで驚きの声を上げる土方を振り返る事もなく、風間は早々に町中へと姿を消した。
慌てて刀を納めて追うが、もうその姿を捉えることは出来なかった。
姿の見えない風間を追う歩みを止め、土方は蒼天にまだ高い日を仰ぎ見た。

「色々と予定は狂っちまったが…まぁ、いいか」

ぽつりと漏れる声。
事の運びはどうであれ、あとは風間に勝てばいいと。
そうすれば、この手に抱くことも可能なのだと思えば、土方は晴れやかな笑顔を浮かべた。





「風間あぁぁ!」
「しつこいぞ貴様っ!」

今日も今日とて京の都では、奇妙な追いかけっこが繰り広げられている。

「逃げるなよっ!」
「逃げてなどおらん!」
「だったら止まれ!」
「断る!貴様に構ってる暇などないのだ!」

新撰組鬼副長が、鬼の頭領を追い掛ける鬼ごっこ。



風間を探し歩く土方
土方を撒く風間


衝撃の告白劇から関係の均衡は未だ崩れず。





何故あの時対峙してしまったのか。

長いこと、正面から向かい合ってはいけないような気がして、ずっとうやむやに撒いていたのに。
そうしていれば、土方の本心など分からずに済んだものを。


風間は心底思った。
己の本能と直感は意外にも優秀だったのだ。と。






そうして…


少しだけ…



うっかり陥落してしまいそうな

そんな自分に


複雑な溜め息が溢れるのだった














110309

斬番10000

リクありがとうございました!

今回、ふと思い付いた光景がギャグな感じだったので、ギャグで書かせて頂きました。
風間←土方の追う感じなので、追いかけっこや鬼ごっこなどのどたばたで…
とか進めていったら、土方氏が大変なことになってしまいました(笑)

頂いたご希望に少しでも沿えているとよいのですが…
こんなですが、ちょっとでも楽しんで頂けてたら嬉しいです。

1/14にリクをくださった方のみお持ち帰り可




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