恋戦協定標的知らず第一印象はそれこそ、強烈で鮮烈。 攻撃的で、且つ敵とくればそれこそおのずと抱く感情なんて決まってくるだろう。 「初対面でいきなり蹴りいれられたしねぇ」 うららかな陽光に照らされる縁側で、沖田は目の前の庭から碧の空へ視線を上げて池田屋での出来事を思い出した。 良い記憶、と言いがたいはずなのに何故か笑顔を浮かべている。 「にしたって、強烈だよなぁ」 庭先に立っていた原田が、こちらも笑顔で語る。 「すっごい上から目線だしな!」 「まぁ、お前じゃ『上から目線』にもなるよな!」 「新八っつぁん!今別の意味も付け加えただろ!!」 相変わらずの掛け合いを見せるのは平助と新八。 「かなり腕がたつのも確か」 「おかげで厄介だけどな」 静かに頷く斎藤に続いたのは土方だ。 新選組幹部が勢揃いして話題にしているのは、鬼の頭領こと、風間千景。 各々口にする言葉は好意的な方ではないのだが、何故か皆一様にその顔は笑み溢れている。 「皆さんお茶どうぞ」 話題にするは敵の大将なわけだが、何故か暢気な空気の屯所の縁側庭先。 千鶴がお茶を運んでやってくれば、さらに空気は柔らかさを増した気がした。 そこへ一陣の風が巻くように吹く。 突発的な風を連れて現れたは、話題にしていた件の鬼。 「ふ…」 「風間千景!!」 何時もの鼻での嘲笑を、そこにいた新選組幹部全員に名前を呼ばれ遮られ、思わず言葉を飲み込んでしまった。 おかげで奇妙な沈黙が一時その場に漂う。 「よくきたな。風間!」 沈黙を破ったのは土方の一声。 「ほんと、久しぶりじゃない」 「何してたんだよー」 土方が声を発したことによって、その場の空気が変われば沖田と平助が続いた。 「うーん…あいかわらず……その…あれだ…」 各々に声を掛けてくる面々に、風間の眉が寄り、眉間に皺が刻まれていく。 「おい」 怒気を含み始めた低音と共に紅色の瞳がぐるりと新選組の面子を見る。 「息災であったか?」 斎藤の一言に、あからさまに不機嫌な表情へと風間の顔が歪んだ。 「さっきから、貴様らなんのつもりだ」 その場にいるのは確かに敵対する新選組。 なのに皆一様に笑顔を浮かべ、柔らかな声色で話しかけてくるのだ。 こちらの体の気遣いまで見せるのに、からかわれているのか、はたまたなにか裏があるのか。と風間は険しい表情で睨み付ける。 「なんのつもりだって…別になにもしちゃいねぇだろうが」 怒気と殺気を含む風間とはうって変わり、暢気な声で返したのは土方だ。 じろりと紅色がその様を探るように睨むのもお構い無しで笑んで返す。 本当に随分と久方ぶりに敵陣に乗り込んでみれば、笑顔と暖かな空気に迎えられる。という風間にしてみれば異様な空気。 やはりこれは何かの罠か?と訝しげに辺りを見回そうとした瞬間、背中から何かに飛び付かれた。 しまった。と思ったと同時に瞬発的に振り払おうと半身を捻ったとこで、きらきらとした瞳とかち合って風間の動きが止まった。 「なあなあ!せっかくひっさしぶりに来たんだからゆっくりしてけよな!」 背後から腰に両腕を回して抱き付いているのは平助だった。 犬の耳と千切れんばかりに振る尻尾が、うっかり見えてしまうしまうのではないかという様子に、風間は固まったまま。 平助には殺気など微塵もなく純粋な喜びのみ。 ここが敵陣であると強く認識している風間にとって、これでは気配に気付きにくいのも当然だ。 「そんな物騒なもんに手掛けてんなよ」 「そうそう。突っ立ってないでこっちに来て座りなよ」 帯刀している柄に掛けた手をやんわりと握って退けたのは原田。 にこにこと笑いながら、縁側で手招きするのは沖田だ。 「どうした風間?ほらほら!」 状況が把握出来ず、固まっている風間の両肩を後ろから押して縁側へと新八が向かわせる。 すとん。と腰を降ろしたとこで、風間はいまだ呆然としたままだ。 「随分と姿を見なかったからな。気になっていたのだ」 「ま、元気なようでなによりだ」 「あ、私風間さんのお茶淹れてきますね」 風間の横へと腰を降ろした斎藤が静かに声を掛け、近くに立っている土方は相変わらずに柔らかな笑みを湛えている。 にこりと微笑みお盆を抱えて千鶴が立ち上がり、いそいそと奥へと戻っていく。 「一君てば、ちゃっかり隣に座ってるよね」 「総司。お前に言われたくはない」 風間の両脇には沖田と斎藤。 背後には縁側に上がった平助がいる。 他の面子は風間の回りに立っていた。 大歓迎の様相を呈するに、全く思考がついてこず、風間は先程から緋色の瞳を見開いたまま茫然自失という有り様だ。 皆一様になんやかやと風間に話し掛けるも、当の風間には何も聞こえていない。 「風間さん。はい、お茶。熱いので気を付けてくださいね」 「…………ああ」 お茶を入れて戻ってきた千鶴が、湯呑みを渡したとこで、やっと反応が返った。 それでもどこかぎこちなく、風間は手元のお茶を眺めている。 「あ、なんかお茶菓子とか欲しい?」 「風間は甘いのとしょっぱいのどっちが好きなんだ?」 横と背後から顔を覗き込みながら聞いてくる沖田と平助の姿を、今まで焦点が合っていなかった紅色が今度はしかと映した。 途端に湯呑みを荒く縁側に置くと勢いよく立ち上がり、素早く新選組に囲まれているその輪から距離を取った。 「……どうしたんだ?」 「どうしたではないわ!」 「急にびっくりしたー!」 驚いたのは今度は新選組の面々。 「何か急用でも思い出したか?」 「違うわっ!」 「なら、どうしたのさ?」 斎藤と沖田は縁側に座ったまま、突如自分達の間から距離を取り、庭先に此方側を向いて立つ風間を見やる。 「貴様等こそなんのつもりだっ」 「は?俺らがどうかしたか?」 「なんの罠だ!何を企んでいる」 「はあ?罠とか何言ってんだお前ぇは?」 「ともかくよ、急用じゃねぇなら座れって。な?風間」 「誰が座るか!」 屯所に現れた当初の、あからさまな怒気を取り戻した風間に、土方は困惑を全面に問い返し、新八は変わらずな調子で風間に声を掛ければ一刀両断な返答が返った。 見渡す新選組の面子は皆不思議そうに見つめてくるという、風間にとっては当然、不可解で、理解に苦しむこの現状。 「貴様等、この俺を愚弄する気かっ!!」 「愚弄?そんなことしてねぇって!」 低く唸る声に慌てて否定したのは新八で、その意見に賛成だと周りが揃って意思表示をする。 「そうだぜ!なんで愚弄なんかするんだよ!俺は風間のことがす…」 「あ――――っ!平助!!」 「おいこら平助っ!」 驚きの顔のまま口を開いた平助の言葉は、新八と原田に口を押さえ込まれて途切れた。 「なぁーに抜け駆けしようとしてんのさ」 「皆でした約束ではなかったのか」 「おい、平助どさくさ紛れってぇのは感心しねぇな」 皆の視線が集まるなか、口を塞がれたまま平助はそんなつもりは。と首を降っている。 何やら内輪揉めのような様子でごちゃごちゃと話している一連の有り様を、風間は困惑してくる頭を抱えながら眺めていた。 会話の内容は全く聞こえないのだが、なんとなく声を掛けない方がいいような気がする風間の本能は、なかなかに優秀だ。 やっと口を解放され、大きく深呼吸をした平助が庭先に視線を向けた。 「あれ?風間は?」 その声に誰もが視線を向ければ、風間の姿は忽然と消えていた。 「風間さんなら帰りましたよ?」 事の流れを黙って見ていた千鶴が告げる。 「帰っちまったのかぁ…」 「せっかく久しぶりに会えたのに残念」 「もう少しゆっくりしていけばよいものを…」 先程まで風間が立っていた場所には、麗らかな陽光が降り注いでいる。 「次来た時は酒でも用意しといてやるか」 「あ、いいねーそれ!さっすが土方さん!」 「お前ぇらは自重してもらうからな」 「それ、俺と平助と新八だよな…」 惜しむ者に、次は何時かと期待する者。 その表情は皆どこか柔らかくて。 早々に去っていった鬼をどう思っているのかなんて、端から見ても丸分かりだというのに。 風間さんってどこまで鈍いんだろう? 温くなったお茶を啜りながら千鶴はくすりと笑った。 そんなところがまた可愛いんですよね 知らぬは彼の鬼ばかりなり 110222 斬番5555 リク下さいましてありがとうございました! 大変お待たせしてしまいまして、本当にすみません。 風間総受ということで、皆とってもオープンに風間大好き!でも当の本人全く気付いてません。的な感じでのギャグで書かせて頂きました。 ちなみに抜け駆け無しとの法度だったり(笑) 今回千鶴ちゃんも登場させたのですが、総BLの中に千鶴ちゃんを入れるかどうか…とも悩みましたが… BLの中に女性キャラが混じるのが苦手でしたら、申し訳ありません(汗) お暇潰しでも、少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。 11/14にリクをくださった方のみお持ち帰り可 |