元旦は姫と一緒に年始め





新年の幕開け。

初詣は深夜、零時を告げると共に寒い元旦夜空の下で、異様に活気づく神社の人混みに揉まれながら済ませて来た。
人混みを嫌う風間を、せっかくだから大晦日から新年への年越しカウントダウンをしようと土方自身も柄に無いとは思いつつも引っ張り出し、家に辿り着けば二人して睡魔に襲われベッドへ直行だった。



清々しく晴れ渡った元旦。
もそもそと起き出せば、時刻は昼に程近く、テーブルに並ぶは事前に注文しておいた御節の重箱。
欠伸をかみ殺しつつ、キッチンから作り上がった雑煮を風間が運んで来た。
どちらが作るか揉めたのは大晦日の夜。
基本的に互いに料理好きでも、料理が得意なわけでもないから初詣先のおみくじの結果が悪かった方が作る。
と新年早々の運試しに見事勝利したのは土方だった。
そして、新年早々に風間に初睨みされたのも言うまでもなく、なんだか今年も可愛い気のある恋人は望めそうにない現実に、心中溜息を漏らしたのだった。



テレビでは袴や振袖やらに着飾った芸能人が、長々とした正月特番ではしゃいでいる。

「おい」
「?」

正月料理に手を付けようとした土方の目の前に、ずいっと盃が差し出された。

「ああ…」

酒は不得手だが、お神酒とあらば縁起物で苦笑しつつも受け取れば風間が満足そうに笑む。
酒好きの風間に、普段は全く付き合う事もしないから、酒を酌み交わせるのが嬉しいのだろう。
舐めるように飲みながら、雑煮に御節にと摘んでいれば、少なくなった盃に酒を継ぎ足そうとする風間の手を止めた。

「もういい」
「なんだそれしき。まだいけるだろう?」
「いや、もう充分だ」
「………」

盃に一杯だけと断われば、不服を隠しもしない表情にまたも苦笑いが零れた。
お重の中、あちらにこちらにと箸を動かしていれば、風間は食物にはあまり手を付けず盃を御猪口に変えて酒を傾けている。

「おい。それ寄越せ」
「いい」

ずっと手酌で呑んでいるのをせめて酌でもしてやると手を伸ばせば、持った徳利を遠ざけるようにして拒否された。

「手酌はねぇだろ。寄越せって」
「貴様が飲むなら渡す」
「いや、俺はもういいって」
「今日ぐらい良いではないか」

せっかくのめでたい正月、一緒に酒を酌み交わしたかったのだがそれも叶わず拗ねているのだとはわかるが、こればかりは仕方ない。
はぁ、と小さな溜息が口から零れれば、それを耳にした風間が不機嫌そうに席を立ち酒を手にソファへと移動した。
別に風間に対して溜息をついたわけではないがどうやら誤解したようで、こちらに背を向ける形で冷や酒を煽っている。

「いい加減にしておけよ」

暫しの間様子を見ていたものの、一向にソファから動く気配も無く酒を飲み続けている姿に、近付いてまさに猪口に口をつけようとしているその手を取った。

「なんだ」
「飲み過ぎだ」
「そんなことはない」
「いや、飲み過ぎだろ」
「貴様のように酒に弱くはない」
「そうかも知れねぇけど、今日はもうやめとけ」

めでたい正月でもあり、付き合いの悪い土方に不服の呈もあり何時もより格段にピッチが早い。
酒豪の風間がほんのりと頬を染めて、緋色の瞳がとろりと溶けて見上げてくる姿は随分と珍しい。

「煩い。下戸はおとなしくそちらで御節でもつついてろ!」

新年早々に不機嫌極まりない酔っ払いの恋人を相手にしなければならないこの状況に土方は内心苦笑した。
一人酒はつまらないことは、酒が不得手な自分にでもなんとなく分かる気がして一概に風間を責められない。
普段は自分が飲まないことを理解して、無理強いしてくることはしないからこそ、めでたい日だけでも二人で一緒にという思いからくるのであろう、こんな風に拗ねる姿が愛らしく思えてしまう。

「お前ちょっと酔い気味だぞ」

やんわりと手から取り上げれば、取り返そうと手を伸ばしてくる。

「煩い!返せ」

奪った酒を遠ざけ、伸ばされた手首を取る。

「貴様っ自分が飲めんから…んっ!」

眉間に皺を寄せ文句を口にするその唇を唇で塞いでやった。
軽く唇を舐めるようにしてから離せば、変わらず不機嫌な紅がそこにある。

「……酒は嫌いなのだろう?」

存外に酒の匂いをさせる自分を皮肉めいて口にする風間に、土方は笑って見せる。

「てめぇの酒臭さで追い払えると思ってんなら、甘ぇんじゃねぇのか?お前からする酒の匂いなんざな、なんの問題にもならねぇよ」

再度触れるだけのキスをし、至近距離で紅を捉える。

「『一人』でってのはつまんねぇだろ?どうせなら『二人』で一緒の方がいいよなぁ」

言うが早いか、土方は手際良く横抱きに風間を抱え上げると寝室へ向かう。

「き、貴様なにをっ…!?」

いきなり掛かった体への強い力と浮遊感に思わず土方に抱き付くと、驚きに反応が遅れ、事態を把握し口を開いた時には既にベッドの上に押し倒されていた。
背中には心地好いスプリングのきいたベッドの感触、見上げる先には自分に覆い被さる土方の姿。

「元旦早々になにを考えている」
「言って欲しいのか?」
「………いや、いい」

責めるように睨めば、形の良い唇でにんまりと笑みを象る土方から視線だけをそらした。

「…っん……ぅ」

降ってくる柔らかい唇の感触と、ぬるりとした舌が口内に侵入してくる。
歯列をなぞり、口腔内を舐められ、緩く舌を絡め取られる頃には息が上がり始める。

「……んぅ…っ、ふ…ぅ……はぁ」

互いに舌を絡め合い、長い口付けを解けば風間の口から熱の吐息が零れた。
手触りのいい金糸を指で絡めるように鋤きながら、熱を灯す緋を見つめる。

「……千景…俺が嫌いか?」

静かにゆっくりと問えば、僅かに眉を寄せ紅が揺れる。

「貴様…ずるいぞ」

柔らかな光を湛えた菫色の瞳が真っ直ぐに見詰めてくる。

「その質問は卑怯だ」

自分に覆い被さる男が嫌いならば、こんなこと、ましてや体を許したりしない事ぐらい解って聞いてきているのだ。
それでも、服の中に侵入し、素肌を、体を意味を持って這い回る手を甘受してしまうのはどうにも惚れているからなのであろう。

「ーっ、……んぁ」

早々に纏っている服は意味を成さなく、ただ絡み付いているだけで、顕になった白い肌を土方の舌が思うままに舐める。
胸の突起を口に含み、舌で転がしながらも吸い付けばツンと立ち上がる。
滑らかな肌を楽しみながら胸や脇腹を撫で、ズボンの前を寛げると直に風間の自身に触れれば、それは既に熱を持ち反応を示していた。

「あ…や、やめっ……あうっ!」

胸元から見上げるように風間に顔を向ければ、羞恥の為か頬を真っ赤に染めあげていた。
恥じらうように足を閉じようとするのに、強めに自身を握り込んでやるのと同時に、胸の突起も歯を立てて甘噛みしてやれば、ビクリと躰が跳ねる。

「や、やぁ…はぁ……あ、あっ」

感じるところばかりを攻め、緩急をつけて扱いてやれば、先端からは悦楽を示す蜜が更に溢れて濡れた水音がし始める。

「ぁ…あぅ……もっ、や、…やめっ」

普段は酒に酔いもしない風間だが、今回ばかりは荒く飲んだせいだろうかほろ酔いのような状態で、いつもの情交よりも紅色の瞳は随分と欲に蕩け呼吸と喘ぐのとで忙しく口は開きっぱなしで、零れる嬌声は普段より数段多く甘い。
感度も上がっているのだろう、追い詰めるように風間の弱い箇所を攻めていれば、シーツをきつく握り締めていやいやと首を振る。

「あ、あ、…や…だっ……はぅ…やぁ…」
「…本当に……嫌か?」

濡れる先端に親指の腹を擦り付ければ途端にビクリと腰が跳ねる。
快楽に震える風間の躰にぴったりと土方は自分の躰を寄せ、うっすらと涙と熱に潤む紅を覗き込む。

「そんなに嫌ならやめてやるけどな……」

風間が口にするのは拒絶ではなく、ほろ酔いの過敏になった躰に過ぎる快楽に耐えきれなくてだということは重々承知の上で土方はわざと口にする。
いつになく、感じいってよく鳴く風間の姿に少しばかり加虐心をくすぐられたのだ。

「…ぅ、……ぅく……」

行為を止めた土方に、風間の喉が小さく咽び泣くように詰まる。
眉を寄せ潤んだ瞳で切な気に土方を見つめると、なかなか言葉にならない唇が震え、ようやっと小さな声が落ちる。

「………やめ……な、………で……んっ」

伸ばされた手が首に絡み躰全体で求めてくる姿に、意地悪を仕掛けたのは自分だが、最後までしっかりと言葉にさせるのは少々可哀想に思えて、もう充分だと口付けで塞いでやった。
風間の蜜で濡れた指を後孔へと滑らせ、ゆっくりと中へ挿し込み内壁を押し拡げるように解していく。

「んぅ…ふ、あ……ぁあ…あっ」

口付けから解放してやれば、途端に甘い声が上がった。
中で蠢き、徐々に増やされていく指の数に風間の躰がびくびくと震える。
そろそろか、と土方が思うと同じように風間の紅の瞳が物欲しそうに揺れた。

「いいな……千景」

指を引き抜き、低く甘く耳元で囁いてから額に、瞼にと口付けを落とし土方は己の猛りを埋めていく。

「―っ、…うぅ……くっ、…ぅあっ」

指とは比べ物にならない熱と質量の圧迫感に白い躰がもがく。
全てを収めてから、宥めるように髪を鋤き、頭を撫でてやる。

「…動くぞ」

律動開始すれば、うっすらと開いていた溶けた緋は直ぐに瞼で覆われた。

「ぁ…あっ……ぁう、…ふ、あっ」

眉間に寄せられる眉も、きつく紅を閉ざす瞼も苦痛だけでないことは、落ちる甘美な声、その表情と染まる頬、はては桜色に色付く躰全体からわかる。

「…千景…」

浅く深くと中を穿ちながら愛しさを込めて名を呼んでやれば、すっかり欲情と快楽に溶けきった緋色が土方を映す。
力無く首元に絡んでいた風間の手の、長く綺麗な指が漆黒の髪に絡み、返すように甘い喘ぎの中唇が小さく名を象った。
誘われるままに唇を重ね、互いに深く深くと呼吸も忘れて貪るように口付けを交わす。

「は、あ……も、…ぁ、あっ……もうっ」
「…っ俺も……だ…」

僅かに離し、唇が触れ合う至近距離で風間が限界を訴えれば、土方も既に余裕など無く高みへと一際深く穿つ。

「―っあ、あっ……ぁああっ!」

しなやかな躰を、白い喉を仰け反らせ耳に心地好く響く嬌声と共に、腕の中で風間が艶美にはてる。
同時に、戦慄く躰そのもののように中の猛りを締め付けられて、土方は風間の奥へと己の熱を放った。

「……ん、……ふぁ………」

躰の内に注がれる熱と、抜けていく感触に小さく震える風間の姿が愛しくて、土方は腕の中に閉じ込めるように抱き締めた。

「千景…愛してる……」

まどろむように脱力しきって、全てを自分に預けている風間の体を慈しむように優しく撫で、汗で張り付いた髪を鋤きながら耳元に愛を囁く。
まだ荒い呼吸を繰り返す唇が何か言いたげに震えるが、声にならず土方の胸に頬を擦り寄せる仕種に自然に頬が綻んだ。

「無理すんな。分かってるから」

抱く腕に更に力を込めれば、まだ熱の余韻を残す熱い体が直に触れ合い幸福感に満たされていく。

「千景、今年もよろしくな。…いや、この先ずっとだな。離す気なんて更々ねぇから末永くよろしくな」

上目使いで見上げてくる風間に笑顔を向ければ、形の良い眉が潜まった。

「………毎年年明けにこれは……勘弁しろ」

僅かに眉間に皺を寄せ口にする言葉とは裏腹に、情交の余韻とはまた別に頬が染まるのに土方の笑顔は深くなる。

「姫はじめでいいだろ?」
「………………っ」

お前も随分よさそうだったし。と付け加えるのは、さすがに機嫌を損ねそうなので言わないでおくことにした。


今は溢れる幸福と、腕に愛しさを抱き締めて
心地好い気怠さに互いに身を任せ微睡んでいよう。







謹賀新年
皆様の今年一年が幸多き年でありますように。












20110108


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