めりめりくりすますv





きらきら光るきれいなきれいなイルミネーション。
幻想的で、きらびやか、それでいてどこかわくわくそわそわするような高揚感。
世の中クリスマス一色に彩られれば、恋人達には待ちに待った一大イベントだ。

何処かへお出掛けってのもいいけど、恋人の家で愛しく可愛い恋人を目の前に、ゆっくり過ごすなんてのも格別。
テーブルに並ぶ料理はデリバリー物だけど充分すぎる。
白いホールケーキは外せない。
お互い用意していたプレゼントも交換して

「はい。これはもう一つ僕から」

にこやかな笑顔と共に沖田は、大きめの綺麗にラッピングされた紙袋を風間に差し出した。

「なんだそれは?」

訝しげな目を向けるも差し出された袋を受け取り、中身を確認すれば風間を取り巻く空気がこのクリスマスと言う甘い雰囲気に似つかわしくない程に重苦しくなった。
無言と怒りを顔に貼り付けて、紙袋を返してくる風間に沖田は飄々と笑顔を向けたまま受け取ろうともしない。

「千景似合うよ。絶対」
「なんの話だ」
「クリスマスだもん。サンタさんがきてくれないと」
「いいか沖田。サンタなぞと言うものは幻想で空想の産物だ」
「わぁー千景ったら夢のない!」

大袈裟に肩を竦めてみせる沖田は、未だに紙袋を受け取る様子もない。

「ま、僕もいい大人だからね。子供が夢見るようなサンタに来て欲しいわけじゃないよ。だから、ソレ着て?」
「どういう脈絡でそうなるのだ」
「もぉー千景鈍いなぁ。まだ分かんないの?僕は、大人のサンタさんにきて欲しいの!」
「わかりたくもないわっ!」

むぅ、と頬を膨らませむくれる沖田に風間の怒声が響く。

「あのね、僕がそれをどんだけ探し回って手に入れたと思ってるの?」
「いらぬ苦労と労力だな」
「千景に似合うのを!って思ってね」
「余計なお世話だ」
「でもって、僕の趣味をふんだんに取り入れ、かつ可愛らしくセクシーなものって」
「はてしなく無駄な頭だな」
「ソレを着た千景をフルに想像して、胸を高鳴らせながら選んだ僕の苦労を、少しは汲もうと思わないの?」
「…………黙れこのセクハラ魔」
「千景顔真っ赤だね。かわいいー」

大袈裟にむくれてみたり、真剣な顔を作ったかと思えば拗ねてみたり、いまはにこにこと決して屈託の無いとは言いがたい笑顔を向けてくる沖田に、風間は全く受け取られない紙袋を叩き付けてやろうと振りかぶった。

「わ!!ちょ、ちょっと千景っ!料理が台無しになっちゃうって!」

さすがに慌てた沖田が放った言葉に、風間はあと一歩のところで動きを止めた。
怒り心頭の表情はそのままに、なんとか振り上げた紙袋を膝の上に戻す姿に沖田はほっと一息吐いた。

「ねぇー…千景…」
「…………」
「……ダメ?」
「…………」
「千景ー」
「…………」
「ちょっと!無視しないでよ!」

眉間に深く不愉快だと表す皺をくっきりと刻み込み、此方を見もしない。

袋の中身は所謂サンタコスプレセット。
それも普通のではなく、明らかにイメクラ、セクシー系の女の子が着るようなデザインの代物が入っていた。
これを男の自分に着させようと思う上に、その姿を見せろと言われれば、はいそうですか。とすんなり着る男が何処にいるのか。
沖田を完全に視界からシャットアウトし、無言を貫く風間の姿に、はぁ、と小さな溜め息と共に沖田は肩を落とした。

「………いいけどね…最初から着て貰えるなんて思ってなかったし…千景嫌がるのもわかってたし」

ぽつりぽつりと小さな声が零れる。

「ただちょっとだけこんな機会だし見てみたかったな…って…」

拗ねるわけでもなく、責めるような口調でもなくただ静かにぽつぽつと小さく零れ落ちるだけの言葉。
沖田が口を閉じれば、重苦しい空気と沈黙が二人きりの空間にのし掛かってくる。

「……千景。僕の自分勝手な我儘に付き合わせて…」

名を呼ばれて下に落としたままだった視線を沖田へと上げた。

「ごめんね」

申し訳なさそうに眉を寄せて、自嘲気味に笑う沖田の顔があった。

「せっかく二人で過ごすクリスマスなのに、こんな空気にしちゃってごめんね」

謝ってくる沖田の言葉に、表情に、奇妙な罪悪感が沸く。
自分に非があるわけではない、至って当たり前の態度を示しただけだと言うのに、何故か胸が痛んだ。
痛む胸、沸く罪悪感、恋人の頼み事一つ聞いてやれない自分が何故か悪い気がして、風間はざわつく心に耐えきれず口を開いた。

「忘れ…」
「今回きりだぞ」

同時に発された言葉に沖田は目を見開いた。
苦々しい表情でそっぽを向く風間の頬はほんのりと染まっている。

「本当にいいの?」
「……ああ」
「全部ちゃんと着てくれるの?」
「しつこいぞ!着てやると言っているのだ!」
「ありがとう!大好きだよ千景」

満面の笑顔を浮かべる姿を見れば、何処と無く嬉しくなってしまうのはやはり惚れているからなのだろうか。

「早く早く!」
「い、今からなのか?」
「勿論!せっかく着てくれるなら早く見たいでしょ?ほら着替えてきて!」

風間を席から立たせ、背中を押して寝室へと向かわせる。
紙袋を見ながら複雑な表情を浮かべる風間は、寝室のドアが閉まる瞬間、沖田がにんまりと唇を引く含み笑いを浮かべた事に気付かなかった。



赤ワインをくるりとグラスの中でくゆらせてから沖田は一口喉へと流し込んだ。
もう一口、と口を付けようとした瞬間

「おおおおきいぃたあああぁぁぁっっ!!!」

誰もが疑う余地の無い、低さを増した重低音の怒声と共に風間がリビングへと乗り込んできた。

「あれ?千景まだ着替えてないの?」

現れた風間の姿は先程と寸分変わらず。
手には怒りの為ぐしゃりと握り潰され気味な紙袋。
沖田の思考と言えば、せっかくの衣装が皺になっちゃうよ。なんて悠長なことを思っている。

「き、貴様っ!どういうつもりだっ!!」
「なにが?」

しれっとした顔で聞き返してくる沖田と裏腹に、風間はふるふると震えている。
表情は正に鬼の形相ではあるが、顔は真っ赤に染まっている。

「なにが?ではないわっ!」
「だからぁーどうしたのさ?」

持っていたワイングラスをテーブルに置くと、沖田はじっと風間を見つめる。

「どうしたの千景?」
「こ、こ、こんなものっ聞いてないぞっ!」
「こんなもの?」
「だ、だからっ…そのっ……このような……もの、ま…で………」

怒りよりは羞恥の色が濃くなっていく風間の表情に加え、ごにょごにょと語尾が消えて明確に言えなくなっていく。

「ああ。下着の事?女の子用の」

さらりと風間が口籠った事を言えば、顔を真っ赤に染め上げて声に成らない口をぱくぱくとしている。

「それがどうかした?」
「どうかしたではないわっ!」

何か問題でも?と小首を傾げる仕草までする沖田に、返す風間の声の荒さは怒りなのか羞恥なのかもうよくわからない。

「こんなものっ!」
「着ないの?」
「あた…」
「さっき全部着てくれるって言ったのに?」
「だがこれ…」
「千景、いつも嘘つかないよね」
「う…」
「千景、いつも約束は必ず守るもんね」
「……」
「千景のそういうところ、凄いなっていつも思うんだよね」

にたり、と正しく表現するに相応しい笑みを顔に広げ、謀略が見事に成功した、或いは思い道りに罠に掛かった獲物をゆっくりと賞味するがごとく、沖田は二の句が継げずにいる風間を眺めた。

「…貴様っ……嵌めおったなっ」

なんとか絞り出すような声を出す風間に、にっこりと微笑んでやる。

「千景は嘘も吐かないし、約束も破らない。…………ね?」

敢えて明確にどうしろとは言わずに促すように問えば、風間は口を堅く引き結び足取り重く寝室へと戻っていった。





「千景!!可愛いっ!可愛いよっ!」
「離れろ!よせっ!抱きつくなっ!!」

随分葛藤があったのだろう。服一着着替えるのにはあり得ないほどの時間を要して、ようやくこっそりとリビングの入り口の壁に隠れるように現れた風間を、沖田は力ずくで引っ張り出し腕のなかに抱き締めた。
ぎゅうと抱き締めた後に今度は少し離れると、上から下までゆっくりじっくりと眺めた。

胸が隠れる程度のポンチョ型。頭には定番のサンタ帽。肘上まである手袋に体のラインが出るぴたりとしたワンピース。
ふわりとしたスカート丈はかなり短くそこから白い太股が露になっている。
すらりと伸びた足に履くレース飾り付きのオーバーニーソックスはガーターで止められ、首元から足先までの衣装にはふんだんに白いふわふわとした柔らかなファーが施されている。

短いスカート丈が気になるのか、裾を握って下へと引っ張っている姿がこれまた愛らしい。

「み、見るなっ!」

沖田の遠慮の無い視線と、己の今の姿に風間はいたたまれなくなる。

「うん。可愛い。やっぱり似合った。可愛い!千景可愛いよ!」
「嬉しくない!全く嬉しくないぞ貴様っ!」

さっさとこの格好から解放されたくて、上機嫌の笑顔を浮かべ、またぎゅうぎゅうと抱き締めてくる沖田を引き剥がそうと躍起になる。

「もういいだろう?着替えてくる」
「は?待ってよ、まだダメだって」
「もう充分だろう?」
「だーめっ。それよりもさぁ…」

にやりと笑みを引く沖田に嫌な予感が背中を走る。
伊達にこの一癖も二癖もある男と恋人同士などやっていない。
こういった時ほど予感は的中するものだ。

「ちゃんと穿いてるの?」

耳元で囁かれた言葉、それが意図するものが瞬時にわかって、風間はその腕から逃れようと暴れだす。

「確かめなきゃね?」
「あ……いや、だ…沖田…」

抵抗してくることは予測済みとばかりに、手際よく暴れる風間の体を近くのソファーへと押し倒した。

「もちろん。その先のこともしようね」
「お、沖田っ…」
「クリスマスに恋人同士が当然することでしょ?」

限界を越えてしまったであろう羞恥に、顔を真っ赤に染め上げてすがるように見つめてくる、なんとも扇情的で倒錯的な格好をしている愛しい恋人に、沖田はそれはそれは優しい笑みを浮かべた。



その先は勿論。
おいしく頂きました。











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