甘やかな時





日は正午を幾分か過ぎた頃合い。
季節は過ごしやすく、肌に心地よい風と温度を伝えてくる。
特にすることもない風間は、風取りの為に開けられた障子から、ぼんやりと碧の空を眺めていた。

静かな空間。
時折風が小枝をくすぐる音が然りと耳に届く程。
室内には風間だけではなかった。
この部屋の本来の使用者は天霧。
風間が手を出す程でもない小事の書状に目を通している。

微睡むような、とろりと溶けるような、暖かく緩やかな時は、心まで包み、暖め溶かすのだろうか。
随分と長い間、おとなしくしていた風間がゆるゆると近付いてくる気配がする。
天霧は変わらず書状に目を落としたまま。

袖の端に小さな力が掛かる。
僅かに、微かに、引かれる感触が布から伝わる。

言葉無しに上半身事僅かに風間に向けて見れば、袖端を握る白い手が視界に入った。
続いて視界を遮ったのは、淡く輝く柔らかな金色。

肩口に風間の頭が寄せられ置かれた。
そのまますりすりと頭を寄せる。
まるで猫のような仕草に、天霧は小さく笑んだ。

境を越えた特別な関係になってから、時折見せる姿。

言葉無く、瞳を閉じて、緩やかで小さな動き。
甘えているのだ、と知っている。

ふと、顔が持ち上がる。
下から見上げてくる緋色を見つめ返す。
淡く笑んだままに天霧の掌が風間の頬を包んだ。

ゆっくりと閉じられていく瞼に合わせ、口付けていく。
空いている片腕で細身の肩を抱くと、合わせた唇の隙間を舌で割る。
風間の舌を捕らえ、ゆるりゆるりと、静かに絡める。

求めると言うよりも
味わうと言うよりも

戯れるように、舌を、唇を、重ねる


一時の間


互いの情欲に火が付く前に音も無く離れた。

満足したのか、腕の中をするりと抜けていく。
先程と変わらぬ体勢で、天霧はまた紙の上の墨文字へと目を落とす。
抜け出て行った体は、背に温もりと重みとなって戻ってきた。

言葉の音ひとつもしない部屋
風の音が耳を撫でる

静かで、暖かで、ゆったりと流れる、心地好い温度さえ感じるような時。

背中に掛かる愛しさに、天霧の頬は甘やかに綻んだままだった。














101017

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