獰獣輪




黒が空を統べり、闇が世を覆う。
喧騒と光が形を潜め、静寂が裾を広げる。


屯所の一室。燻る微細な音をさせている蝋燭の炎が一つ、夜風に揺らめいた。
障子越しの淡い月光が遮る物を失って、光の強さを増し室内に影を落とす。
開けた障子の合間から落ち、人形をとる影からゆっくりと視線を滑らせ、月光を背にする異形に土方は柔らかな笑みを引いた。



パチリと小さな火の音が静かな部屋に響く。行灯の光は淡く所々に影を落とし陰影を刻んでいた。
座った己の腕の中、おとなしく体を預けている細身を背後から抱きしめ、黄金色の髪に顔を埋めた。
柔らかな絹糸が鼻筋に頬にと触れ、心地良い感触を楽しみながら擦り寄せる。
視界に広がる金と白肌、項から首筋への緩やかな曲線に金に縁取られた一筋の帯が栄える様は、己が心をいとも容易く掻き乱す。心に従い唇で境をなぞれば腕の中の体が微かに強張った。

「…土方」

名を呼ぶだけの声色に混じるは、言外に行為に及ぼうとした事についての咎めだと分かり、土方は唇を着けたまま口を開く。

「久々の逢瀬だ。当然だろう」
「なにがだ」
「お前ぇがもうちっとこまめに会いに来るってんなら、ゆっくり話しを楽しむって過ごし方もあるけどな」
「貴様…俺が悪い様な言い様だな」
「……どうだろうなぁ…」

吐息と動く唇が首筋に触れ擽ったいのだろう、風間が僅かに身じろいだ。
曖昧な答えと共に喉奥で笑い、耳裏へと舌を這わせ着物の合わせ目から手を滑り込ませ肌を辿る。

「…―っ」

息を詰める微かな音と同時に肩が小さく揺れた。腕の中におとなしく収まっているのは、口では紡がない合意の意。



風間はふらりとやってくる。
気の向いた時に、気の向くまま、気紛れに。
体を重ねる間柄だというのにその頻度は高くない。故に、優雅に月を愛で、他愛ない会話に興じるなどとそんな余裕は心から次第に消えてしまう。
久しぶりに現れるその姿、触れられる距離にその身があれば、その体を欲し貪りたいと思ってしまうほど、ままならない想い人。



滑り込ませた手で胸の粒を摘み、もう片手を腰帯に掛ける。衣擦れの音をさせて着物の合わせ目が崩れる程に解けば、風間の手が制止の意志なのかとっさに土方の手に掛かるが、力は無い。

「っは、…土か…っん」

こちらへと振り向く形で顔を向けてくるのに、唇を重ね深く深くと舌を絡める。

「―っ…ん…んぅっ」

体勢的に苦しいのだろう、すぐに息が上がり始め顔を引いて離そうとするのを許してはやらず、噛みつくようにして追い、塞ぐ。

「ん…ぁ……ふぁ」

僅かな呼吸を許してやるのは角度を変える微かな隙間のみで、風間の舌を、口腔を、好きに味わう。
粒を弄っていた手を肌を辿りながら肩へ、曲線に沿って撫でれば着物が肩から滑り落ち胸元がはだけていく。

「ん……―ぅんんっ!」

腰帯を解いた手で下帯も取り払えば、上がる非難の声さえも、唇を逃さず捉えたまま喉奥へと飲み込んでやる。

「――っは……は、ぁ…はっ…」

漸く解放してやれば、酸欠に近いのか、深く長い口付けに酔ったのか、土方の肩にくたりと頭を預け、濡れた唇で何度も乱れた呼吸を繰り返した。


身を預けるしなやかな躰に視線を落とす。
着崩れ、乱れた着物。
見下ろす形で視界に広がる、露わになっていく白肌に目眩がしそうだ。


抱き竦める様にして体を反転させ、土方は風間を己が身の下に敷いた。
ゆっくりと瞬く、熱と欲を浮かべた潤む紅玉を真上から見下ろす。

「……風間」

静かに名を紡げば紅が瞬きだけで返答を返した。
胸元に口付けを落とし、掌で、脇腹、腰、下腹部とゆるりと辿っていく。

「土、か…たっ……ぁあっ」

中心部を手中に収めれば、下に敷いた体がびくりと震えた。
緩く反応していた自身を、根元から先へと指を絡めながら強めに扱いてやれば、しかりと硬さを増していく。

「ふっ…あ……あぁ」

既に濡れ始めていた先端を擦ってやれば、更に蜜が溢れ、零れ落ち、腰が震えた。
濡れる指をそのまま後ろへと滑らせ縁を撫でれば、投げ出されていた風間の片手が抑止の為か、秘部に触れている腕を掴んでくる。制止の意と欲を同時に纏ったままの紅の視線とぶつかるのに、土方はわざとらしく笑んで見せた。

「―っう……ぁ……あっ」

掴む手も視線もお構い無しに指を埋めれば、呻く声と共に瞳を閉じ眉を寄せる。
内を撫でながら、指を増やしていけば色を帯びる声が闇の中に零れ落ちていく。

「……風間…いいな…」

返答が返らないのは承知の上で、指を引き抜き己の猛りをあてがうと、腰を捉え組敷く躰へと熱を埋める。

「は…ぁ…―く………うぁっ!」

半分辺りまで飲み込ませた後、一気に根元迄突き入れれば衝撃と圧迫に一際音を増す声が上がった。
首に巻かれた飾りが、眼前で仰け反る白色の喉の中に存在を主張する。

「あ、ぁ…はぁ……あっ」

緩やかに動き始めれば腕の中の躰が震え、甘味を帯びた声が耳を擽る。
土方は身を幾許か起こすと、ゆるゆると掌で胸元を撫で、喘ぐ喉元へと滑らせていき、白い首に鮮やかに主張する紫紺の紐に指を掛けてそのまま風間の躰を引き起こした。

「あっ…あぁうッ!」

熱を埋められたまま躰を無理に起こされ、首に掛かる己の重みと、苦痛を伴って身の内により深く飲み込む土方自身の衝撃に、風間の躰がびくりと跳ね派手に声を上げ苦し気に呻いた。

「はっ…あ……―き、…さまっ……ぅ」

身の内に走る衝撃にきつく閉じていた瞳を薄く開き土方を睨みつける。

「……首輪…か…」

普段なら射殺す様な鋭利な紅の眼光も、熱と欲に潤み鋭さは幾分形を潜めていた。
掴んだ紫紺の紐のみで、風間の体を引き寄せ支えたまま、睨む紅に真っ向から視線を絡める。

「これはこれで似合っちゃあいるけどな…」
「―ッあ!……うぅっ」

笑みを刻んだままの唇を首輪と称した飾りと首に落とし、境を舌で舐める。腰を緩く揺らせば、苦痛と快楽が混じった躰が小さく跳ねた。

「…っは……どう…い、う……つもり…だ」

不安定な体勢に加え、穿たれた熱と内から上がる痺れるような快楽に、熱の籠もった吐息で切れ切れになりながら問う風間に、土方は顔を上げた。

「そうだなぁ………」

欲に潤む紅と視線を絡み合わせる。

「お前ぇに…俺からの首輪を着けてやりてぇなぁ…」

闇と情欲に色濃くした紫濃の瞳を細め、輪の嵌まる白い喉を眺めた。

「…それなら…鎖も用意してやらなきゃなぁ……」

手中の紐を引き寄せる様に手繰れば、風間は抵抗するように顔を背けた。
その様は、己が望みを具現化するが如く倒錯的で、必然に笑みが濃くなる。
更に力を掛けて眼前へと寄せれば、無理に掛かる喉への圧迫の為か小さく呻き声が漏れた。

「――っぅく、……あ、ぁ…あぁ」

目の前まで顔を引き寄せると同時に、腰を揺すってやれば快楽を露に甘く鳴く。

「………このそっ首に嵌めてやるよ」

体内を侵食する甘い痺れに呑まれそうになりながらも、土方が愉悦と共に綴る言葉に、風間は薄く開いた瞳で睨み付ける。

「き…さまっ…この、俺を……飼い殺、す……気か」


組敷く者は、己という種を遥かに凌駕する強大な力を持ち、存在自体に畏怖さえ感じさせる異形。
ましてや、腕の中の彼が内包する内は、時に鋭利で鮮烈であり、獰猛ささえ垣間見せる。

今、視界に広がる情景は、熱と情欲を露に己から与えられる快楽に体の下で酔う姿。


細く白い首に首輪を嵌め
重厚な鎖で繋ぎ
その彼を
縛り付け、この腕の中に閉じ込める。


想像するだけで


「ああ……そりゃまた随分と…たまらねぇ…………」

甘美で優美で淫靡な誘惑だ






ゆうるりと、手繰っていた紐を弛め寝かせれば、きつい体勢から解放された風間の口から吐息が漏れた。
律動を再開すれば紅は瞼の奥へと隠れ、濡れた唇から色濃い快楽の音が落ちていく。

「あ、ぁ……はっ…ぅ………んぁ、あ……ぁあ」

艶やかに染まるその声、その顔、その躰。
額に唇を落とし、閉じられた瞼、頬へと辿っていけば、長い睫が微かに震え、先程とは変わり溶けた紅がうっすらと姿を現す。

「……は、っ…ぁ……土、……か…た……」
「………風…間……」

吐息も鼻先も触れ合う距離。
互いに欲に溺れ、熱に浮かされ見つめ合う。
土方の手が風間の喉を滑る。
風間の掌が土方の頬を撫でる。

どちらともなく唇を寄せる。

触れる一瞬、風間の口許が微かに笑んだ気がした。


「………やってみろ……」


吐息と共に僅か微量に囁かれた、至極甘美な誘惑ごと、深く重ねた唇で飲み込み、互いに濃密な快楽に沈んだ。



獰猛な獣を飼い殺す
背筋の凍るような悦楽
















101015

斬番1400

ヒヨ太様、リクありがとうございました!

なんだか、色々どうなんよ!?とツッコミ入りそうな感じですが、こんなんですみません。
ほんのちょっぴりでも楽しんでいただけたら幸いです。

ヒヨ太様のみお持ち帰り可





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