他愛なき嬉日





京の町は相も変わらずの活気。
道には数多の人々が往来し、人波は途切れることを知らない。

小さめの茶屋。
店先に並べられた簡素な椅子。
日除けの傘は脇に佇む。

椅子に腰掛け往来を眺めていれば、茶屋の主人が頼んだお茶を盆に乗せてやって来た。
一言、二言、決まりのような言葉を交わすと、店の主人はまた奥へと帰っていく。
運ばれた湯のみを手に取って空を仰げば、降る日差しは心地良い。
うっすらと目を細めて天の碧を眺めてから、手元に視線を落とせば、綺麗な新緑の色の中に小さな吉報が立っていた。

「…ほう…茶柱か」

物珍しいそれは、吉を呼ぶと言う。
ゆらりと湯のみをくゆらせてみるも、茶柱はしかりと立ったまま。
些細な事だが、風間の口元に自然と小さな笑みがこぼれた。

「おう。すまねぇが茶と団子を頼む」

店の主人に向けたであろう。
ふいに横から聞こえた耳覚えのある声に顔を上げれば、横には新選組の副長、土方が腰掛けていた。
黙ったままこちらを見ている風間に笑みを向けてから、手元に視線を落とす。

「茶柱か」

風間の手の内の湯のみを覗けば、綺麗に立つ小さな緑枝。

「吉を呼ぶっていうしな」

黙したままの風間に土方は視線を戻す。

「いいことあっただろ?」
「…は?」

得意気なその顔目掛けて、訝し気に眉間に皺を寄せて問い返せば、土方は更に笑みを引いた。

「こんなところで偶然にも俺に会えただろ?それで、今こうしてゆっくり二人で茶を飲んでる」

紅い瞳が呆れたように細まり、一睨みされる。

「自惚れるな」

一喝される声は静かで、普段より更に低く響く。
こちらから視線を外し、湯のみの茶を啜る姿を、土方は変わらず笑んだまま見つめた。
先程頼んだ品を奥から主人が運んで来れば、礼を述べてから湯のみを手に取った。
隣の者と同様に、香る新緑に口をつければほのかな苦味が口内に広がる。



言葉は無い


程よく心地良い日差しが降り注ぐ


微睡むような、緩やかで、柔らかな時



互いに、交わされる言葉も、視線もない。

それでも風間が席を立たないのは、二人でいるこの時を心地良いと思っている彼の心の現れであろう。

微睡む日差し、碧の空の下。

微かに甘みを帯びるのは、飲み干した新緑か、はたまた己の心か。



自然と口元が綻ぶままに、土方はゆるりと微笑んだ。


















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