You and the autumnal colors
which are colored with red and yellow





「ちょっと虎徹さん!そっちは僕の位置なんですけど?」

町を疾駆するは、ダブルチェイサー。

「連れて行きたいとこがあるって言ったろ?」

一応、とアイパッチを着けた虎徹が本日は繰っている。

「だったら、場所を言うか、ナビしてくれれば…」

虎徹の定位置と言えるサイドカーの方には、今はバーナビーの姿がある。

「バニーちゃん……たまにはおじさんにもこっち運転させてください」





今日暇か?
なんて連絡が入ったのは昼を少し過ぎた頃。
特に用事もなかったバーナビーは、はい。と答えた。
そうして、指定の時間に家を出れば、マンションの下にダブルチェイサーに跨がった虎徹の姿があった。
有無を云わさずサイドカーへと押し込まれて、早々に町へと走り出したのが数時間前。



町をすり抜け、暫く走れば景色が変わる。
木々が多くなり、ちょっとした高台のような場所に着けば、虎徹はダブルチェイサーを停めた。

「なんですか?ここ」
「いーからいーから!」

早くこっちに来いと手招きしながら、木々の生える奥へと歩いていく。
小首を傾げながらもバーナビーはその後に続いた。
暫く歩けば、虎徹は一つの木の側で止まった。

「どうだ!凄いだろ」

胸を張って見上げた先は、真っ赤に染まっていた。

「え?」
「え?じゃねぇよ!紅葉だよ、紅葉!」

同じように紅に染まる木を見上げたバーナビーは首を傾げる。
その様子に虎徹は高くに伸びる紅葉の木を指した。

「キレーだろー?たった一本だけだけどな、この前見付けてよ」

一本だけ、その場に佇み見事な緋を纏う紅葉の木を、ふっと目を細めて眺めている。

「単なる木と葉じゃないですか」

情緒に浸ろうかと思うその寸前、素っ気ない声が聞こえて、虎徹はガクリと頭を垂れた。

「…………おまえね…」
「なんですか?」

視線を上げれば、悪気の全く無いバーナビーの顔に、ああそうか。と内心で頷いた。
文化の違いというか、培われてきた感性の違いというか。
紅葉や楓、銀杏などの落葉樹が姿を変えていく、紅葉を愛でる感覚が無いのだ。
オリエンタルタウンとシュテルンビルトでは取り巻く環境も違うし、ましてやバーナビーのこれ迄の人生を思えば尚更で。

「紅葉だよ」
「そのぐらい知ってますよ」
「バニーの、知ってる。は、知識としてだろ?」
「何か違うんですか?」

馬鹿にされている、と感じ始めたのか、バーナビーの眉間が少しばかり寄り始めた。

「違うんじゃなくて、ここで感じ取れってこと」

とん。と虎徹の掌がバーナビーの胸、心臓の上辺りに当てられた。

「俺の田舎じゃな、紅葉狩りって言葉があんの」
「え?葉を狩るんですか?」
「そーじゃなくってだな。この時期にしかない、この彩を楽しむんだよ。そうして、季節ってもんを感じんの」

だから、頭の知識でなくて心で見ろと、虎徹は小さくとんとんと、バーナビーの胸を叩いた。
バーナビーはゆっくりと再度真っ赤に染まる紅葉の木を見上げる。

そう言われて改めて見れば、燃えるように真っ赤に染まった木は、先に見える淡空から切り取られたようで、そのコントラストが鮮やかだった。

「ここには一本しかないけどな、俺の田舎じゃさ、山全体が赤や黄色に染まってな。色だって、濃かったり薄かったりとかしてさ、それが混ざり合って一面に広がってんだよ…」

隣から、静かに柔らかく流れる声が耳を擽る。
視界を埋める緋に、虎徹の言う情景が脳裏に、ましてや目に浮かび上がるようで。



ああ、それはとても綺麗だろう



と自然に頬が緩んだ



そうして自然に



「…それは…きっととても綺麗でしょうね…」



ぽつりと口から零れた



紅色を見上ながら微笑むバーナビーの姿を、優しい琥珀が見つめていた。



ふいに、枝や葉を掠め揺らして風が吹く。
はらはらと舞い落ちてくる紅の葉を、虎徹が素早い動きで何枚か掴み取った。

「どうよ!?俺もまだまだ捨てたもんじゃないだろ!」

得意気な顔でバーナビーに振り返った虎徹に、呆れを含んだ軽い溜め息が混じる。

「…なにしてるんですか。あなたは」

笑う虎徹とは対照的に、せっかく情緒というものを感じ始めていたバーナビーは肩を落とした。
そんな様子を気にもせず、虎徹は相変わらず笑んだままバーナビーの前へと近付いた。
握っていた紅葉の葉を、はらはらとバーナビーの髪の上に落とす。

「 虎徹さん?」

突如の事に翡翠が不思議そうに見開いた。

「うん!いい彩だ」
「は?何がですか?」

満足そうに頷く姿に、バーナビーは訳がわからない。

「紅葉。赤や黄色に染まるんだって言っただろ?金髪に赤いジャケット…」
「え?」

金の髪に紅の紅葉が飾られて、彼の体を包むのは濃赤のジャケット。
ゆっくりと傾いた陽は夕陽へと変わり。
辺り一面をほの暖かい赤黄色へと染め抜く。


佇む彼は、それこそ秋の彩をその身に纏い、染められ



まるで紅葉だ






「紅葉…綺麗なんだぜ?」


「今のバニーの彩…」



細まった琥珀は夕陽の色を帯、酷く優しく
満面に浮かぶ柔和な笑みは暖かくて



「………なに、いってるんですか……」



零れた声はたぶん彼には聞こえない程小さくて。
辺り一面に溢れる夕陽色なら、頬の朱みもわからないだろう。






愛しいバディ おまえに教えたい

愛しいバディ あなたに教えられる















いつか行ってみたいと

故郷の紅葉をあなたと見たいと


そう言ったなら



あなたは連れて行ってくれますか




もし叶うのなら


それまでに






あなたの感じるその心を

もっと勉強しておきます














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