IF I compare these feelings



崖っぷちヒーロー
なんて、そこかしこで囁かれた
俺の目の前に現れたのは

そりゃもうとびきり美人のルーキー
そんでもって、とびきり小憎たらしい新人だった

何事もスマートに格好よく
余裕綽々で有能
実歴は無いのに実力は有る

ついでに強力なスポンサーまでバックに持ってたりして

これを全て体現するから
なおさら質が悪い


バディであるはずの、俺との会話に使われるのは嫌みしか吐かない口


とくれば


そりゃもう抱く感情なんてわかりやすすぎってやつで





そんなバディが隠し持ってた20年


俺の知らなかった20年



バニー
お前は随分と足場の悪い崖の先端に

全てを捨てて必死に立っていたんだな



俺に見せた
本当のバニーは…





これは同情なのだろうか






「…虎徹さん」
「んーなんだ?」
「離して下さい」
「ヤダ」
「何言ってるんですか!!これじゃあ何も出来ないでしょう!?」
「バニーちゃんは今なんかする事あんのか?」
「……ない…ですが…」
「じゃあいいじゃねぇか」

俺の家で、俺のソファーに座って、バニーと二人。
今俺は、バニーを後ろからがっちりホールドする形で抱き締めている。
少し前なら有無を言わさず蹴りが飛んできたもんだが、俺を『虎徹さん』なんて名前で呼ぶようになってから、随分としおらしくなった。
成長したもんだ…なんてちょっと感慨深く思ったりする。

「…虎徹さん」
「んー、なんだ?」

密着した背中から振動して伝わる自分の名がどこか擽ったい。
腕に抱く温もりが心地良くて、無意識に放すまいと腕に力が入る。

相変わらずバニーはおとなしく腕の中。

「喉が渇いたんですけど…」
「おー、冷蔵庫にビールあるぞー」
「また例のビールでしょ?そればっかりじゃないですか!」
「そー言いながら、バニーちゃんは飲んでるよね。いつも。」
「仕方ないじゃないですか。それしか入ってない事が殆どなんですから」
「次回からはレパートリー増やしまーす」
「それ前にも聞きました」

他愛なくて、とりとめも無い会話。

くだらな過ぎて笑いが出る程に


「……虎徹さん」
「んー、なんだ?」
「だから僕、喉が渇いたと言ったんですが…」
「おう。分かってるぜ」

体勢は相変わらず変わらないまま。
腕の中の温もりは、至極暖かい。
バニーもこの温もりを感じているだろうか。



誰かに触れるということ
自分以外の誰かの温もりに包まれるということ



一人ではないということ



「虎徹さん…」
「あと30分。あと30分な。そしたら一緒に酒盛り!」

バニーが小さな溜め息をついた。

多分、こうして体を密着させていなきゃ分からないぐらい小さな。
その溜め息が随分暖かくて、笑みを含んだものだって事も。

こうしていなきゃ分からないものだった。





手を離さずにいてよかった




手を離す気なんて実はなかった





バニーお前はもっと知るといい
バニーお前はもっと抱き締められるといい
バニーお前はもっと温もりを覚えるといい



バニーお前はもっと



愛されるといい




得られるはずだった20年は取り替えせやしないけど

それを超えてあまりある全てを、お前はこれから得なければ


いや、与えてやる



俺がやるよ



全て











同情なんてそんな簡単で容易いモノじゃない










111024


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