蜘蛛メンバーでホラーゲーム
パソコンとの睨めっ子を終え、ふと周りを見渡せば、キッチンではマチとパクがコーヒーを淹れている。
リビングではソファーに座り、昨日の仕事で得たばかりの古書を読み耽るクロロ。テレビの前にはゲーム機を繋ぐフェイタンとフィンクスの姿。
オレは足元に転がる薄いケースを手に取った。
「何コレ、ゲーム?」
「おぅ!ホラーゲームだとよ」
「昨日の盗品の中に混ざてたね」
「ふーん、あぁ…パッケージに惹かれた訳か…」
裏返し表を見れば何ともフェイタンの好みそうな、血生臭い絵柄にオレは1人頷く。
クロロに言われていた調べ物も終え、暇になったオレは、傍観することを決め…既にゲームを起動させ、コントローラーを握るフェイタンの隣に腰を下ろした。
「主人公、男と女選べんのか…どっちにすんだ?」
「何を迷うか。勿論、女ね」
「え?…何で?」
フィンクスに即答したフェイタンに少し驚いた…オレはフェイタンが団員以外の女といる所を見たことがない…
ましてや、女の好みなんて言わずもがな…そんな彼の知らない一面が見られるのでは?と期待を込めて理由を問えば…
「男よりも女の断末魔の方が心地良いね」
「……これ、生き残るのが目的のゲームじゃ…」
断末魔って…いや、フェイタンらしいけど…と思いつつ、画面に視線を戻す。反対隣に座るフィンクスはケラケラ笑っていた。
オープニングで形容しがたい生き物に襲われる…ここから物語が始まるらしい。
暗い画面に生々しい映像が映る。
「へぇ、案外作り込まれてるんだ?」
「まぁまぁね」
「実際はもっとこう…ギュンって感じだよな?」
いや…な?って言われても分かんねーよ…オレ、操作系だし。
「何をしてるんだ?」
画面から流れる悲鳴にクロロが反応し、パタンと本を閉じた。まぁ殺しを楽しむ節のあるクロロからしたら、興味の対象だろう。
ゲームは場面が変わり、逃げ込んだ洋館の中を主人公が走っている…勿論、フェイタンの操作で…
「なるほど…画質の荒さが恐怖心を煽るんだな…」
「まぁ古いゲームみたいだからね」
ソファーから離れオレの隣に来たクロロが、画面の中で動き回るゾンビをまじまじと見る。
「コーヒー、ここ置いとくよ」
同時にマチとパクが、自分等のとは別に2人分のコーヒーを手にリビングに戻って来た。
「あぁ、悪いな」
「ありがとう」
クロロとオレの分だ。フェイタンとフィンクスはゲーム中は飲み物を飲まない。
「随分と趣味の悪いゲームだね」
「でも銃の腕は百発百中みたいよ」
画面に目を向けたマチが、ボソリと呟けば、ソファーに座ったパクがカップに口を付けた。
「フェイタンの腕が良いのかしら?」
「いや、敵に向けてボタン押せば勝手に当たるね」
ふふっと笑うパクに画面の中で銃を射ちまくるフェイタンが答える。
薄暗い洋館を進んでは銃弾等のアイテムを拾い、溢れてくるゾンビを殺す。
20分程経っただろうか…
「しぶといね」
何度も攻撃しないと倒れないゾンビにフェイタンが小さく声を漏らす。
何だかんだ言ってたマチも、気になるのか画面に目を向けていた。端から見たら異様な光景だろう。
大の大人が6人…悲鳴の絶えないホラーゲームに釘付け、にも関わらず誰1人怖がる様子がない…。
「銃より殴った方が早ェだろ…」
フェイタンの漏らした言葉を聞いていたフィンクスが、何とも無茶な事を言い始めた。
「ナイフか銃しか無いね…」
「はぁ!?マジかよ!ちょっと貸してみろ」
「おいフィン!」
フィンクスにコントローラーを奪われ、眉間のシワを深くさせたフェイタン。
いいからいいから!と装備を外し、フィンクスにより素手になった主人公は…
「あぁ!?」
数体のゾンビに首を噛まれ死んでしまった。
赤黒く染まった画面にはゲームオーバーの文字。
「……」
「ふぇ、フェイ…?」
スッと立ち上がったフェイタンにギロリと睨まれ、フィンクスが窺うように名前を呼んだ。
「…はぁ……やぱ画面の中より、自分で殺た方が楽しいね…」
キレたか?とみんなが身構える中、当の本人はそう言うとアジトから出て行った…
「オレも行って来るわ…」
次いでコントローラーを置いたフィンクスもフェイタンの後を追うように出て行く。
初めてのホラーゲームは、戦闘狂達の本能を煽るだけとなった。
これから出るであろう名前も知らない犠牲者に"運が無かったね…"なんて心の中で笑い…
オレは少し温くなったコーヒーに口を付けた。