天邪鬼の愛
私には昔から好きな人がいる。
『フェイタン!』
「あちへ行け…」
しかし彼は私に冷たい。付き合っている訳でもないのだから、当たり前。これは私の一方的な片想いだ。
『フェイタン!』
「
鬱陶しいね…」
それでもめげないのが私の長所でもある。
『フェイタン!』
「目障りよ、消えろ」
しかし、数年も続くと流石に心が折れそうになる。
「アンタも怖いモノ知らずだね…」
「フェイも素直じゃないしな〜」
よく来る居酒屋のカウンター席で、呆れるマチとケラケラ笑うシャル。同じ流星街出身で、昔からよく知る彼等は私の良き相談相手。
盗賊と一般人。生き方は違うけど、今でもこうして付き合いはある。クロロは私にも声を掛けてくれたけど、私に人は殺せないと断った。
シャルは他人事だからと面白がっている節もあるけど、話はちゃんと聞いてくれる。
『違うよマチ、私だって怖いよ。ただそれ以上に好きが大き過ぎて…』
「あーはいはい。アンタ酔ってるだろ?もう帰りな…」
「すみませーん、お勘定…!」
私の背を押すマチとお金を払うシャル。
「1人で帰れるね?」
『うん』
「1人じゃないでしょ?」
『…え、シャル何言ってんの?』
聞いてきたマチに頷けば、シャルがよく分からない事を言った。何か見えてるの?それはそれで怖いんだけど…
「バカ…!」
「あ、いや、なんでもない…」
マチがシャルを小突くと、シャルは酔ってるのかな〜…なんて苦笑いしている。
結局、よく分からないまま、2人は別用があるとの事で店の出口で別れた。
「お姉ちゃん1人?」
近道にと路地に入れば、知らない男に声を掛けられた。ナンパだ…無視して突っ切りたいけど、道が狭くて、通してはくれなさそう…
「危ないから送って行ってあげ………」
『…?』
引き返そうか…と考えて居た時、男の言葉が不自然に途切れた、直後…
ゴト…と重い音を立てて、何かが地面に転がった。それには目があり、鼻があり、口があり…
『…あた、ま…?』
慌てて目の前の男に視線を戻せば首から上が無い…。
『ひッ、』
吹き上がる赤黒いそれに驚き後退るも、腰を抜かし地べたに座り込んでしまった。
事切れた胴体がべシャリと崩れ落ちる。同時に見えた犯人であろう人影に死ぬかもしれないと泣きそうになった。
しかし、胴体の後ろから姿を現したのは…
「何してるか、お前…」
『フェイ、タン…?』
よく知る男だった。
いつも私の視線よりも下にいる彼が、今はとても大きく見える。初めての死体に腰を抜かし、へたり込む私の前に立つと、彼は徐に手を伸ばした。
『…いッ』
立たせてくれるのかと思いきや、彼に限ってそれは有り得ない。伸ばされた手は私の前髪を掴みあげ、強制的に視線が交わる。
相変わらずの粗暴と鋭い三白眼…それでも…
「お前は黙てワタシに
尻尾振てればいいね…」
『っ、うん…!』
その言葉には彼なりの優しさを感じた。
(何でこんなとこに居たの?)
(た、たまたまね…)
(そっか…)
(よく言うよ…)
(オレ達があの子と飲みに行くの知って付けて来た癖に…)