歪んだ恋慕
ピシャ…と極小さな音を立てて、私の頬に飛沫したのは赤い液体。目の前の彼は口元にいつもの笑みを浮かべて、私の頬に手を添えると、そっと親指で拭った。
足元には私を好きだと言ってくれた男の人だったモノが転がり、私を責め立てるかのように、こちらを見上げている。
「…懲りないねェ…」
『っ、』
「今月だけで4人目だ…」
彼は私の顔を覗き込むように少しだけ身を屈めた。爬虫類のような金眼に射ぬかれ、一瞬たじろぐ。
『ねぇ、』
しかし、そんなのはいつものこと。
『私のこと好き…?』
次の瞬間には、怯むこと無く視線を絡ませ、脈絡の無い言葉を返していた。
「…キミは、どう思う?」
彼はいつだって私の求める言葉を言ってくれない。彼は自他共に認めるほどの嘘吐きだ。その自覚が十分にある彼は恐れている。自分の言葉が嘘になる事を…
私はそれを知っている。だからこそ私は浮気を繰り返す。彼が浮気相手を手に掛ける瞬間だけは、彼の愛を感じる事が出来るから…。
それしか彼の愛を確かめる方法を知らない私は歪んでいるだろうか。
私達のこの関係は何十人もの犠牲の上に成り立っているし、その犠牲はこれからも増え続ける。
「ほら、帰るよ…?」
『うん』
この世に彼以外の男がいなくなるか、どちらかが飽きるその日まで…。