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ヒソカがイルミに指定された場所は、リリィの店から歩いて5分くらいの路地裏だった。
「リリィは?」
「店にいる。一応鍵は掛けさせたけど、心配だから手短に頼むよ」
クロロにヒソカが答えれば、じゃあ早速…と話が始まる。
「ルーベルの研究施設を見付けた」
そう言い、1枚の紙を差し出すクロロ。どうやら地図のようだ。
「ここから北に12km行った所に奴の別荘がある…その地下だ…」
「北に12km…随分と山奥だね」
「良心的な研究じゃなさそうだ」
「あぁ、どうやら…クローンを作っているらしい」
地図に目を落とし、イルミとヒソカがそれぞれ思ったことを言っていると、クロロが静かに述べた。
「ルーベルには1人息子がいたんだ…」
息子はアルビノでとても病弱。それを治療しようと実験施設を作った。しかし、治療実験をしていく内に、息子は負荷に耐えられず死んでしまった…
だが、ルーベルは息子の亡骸を保存し…その細胞からクローンを作る事に成功。更に遺伝子レベルで手を加えることで、容姿は変わらず、強健な息子を作り上げた。
「つまり…ルーベルこそタルタロスの創始者で…その息子は数年前に死んだものの、今はクローンとして生きている…」
「で、厄介な事に、その息子ってのが…レオナルド=サイス…」
「!」
リリィの昔馴染みなんだよね…と言い放つイルミにヒソカは驚きながらも、思考を巡らせる。
…リリィを付け狙っていた男が言っていた白い髪の若い男と、店に来たと言う銀髪の男は恐らく同一人物。それがレオナルドだろう。
そして、誘拐するよう指示していたと言うことは、これからもその可能性があると言うことで…
「まさか…あの花も…」
リリィへの強い執着を感じさせる言葉を持つ花達を思い出し…繋がっていくピースに焦りを感じずにはいられない。
隣で、花って?と首を傾げる2人にも構わず、ヒソカは携帯を取り出す。兎に角、リリィの安否が確認したかった…。
しかし、操作する前に着信を知らせる音が鳴り、ヒソカは直感的に何か良くない事が起きていると察しつつ、冷静に通話ボタンを押した。
「もしもし、リリィかい?何かあった…」
『助けて下さい!』
「リリィ?何をしている?リリィ!」
ヒソカが言い終わる前に発せられた声は、切迫しているようだった。次いで聞こえた怒鳴り声に状況を理解した。
「分かった…すぐ行く…」
直ぐに店に向かい走り出すと、内容が聞こえていたらしい2人も着いてきた。
『…お店に、います…ヒソカさん、助けて…』
泣きじゃくるリリィの近くで大きな物音…
「今、"ヒソカ"って言ったの?」
男の怒りに震えるような、そんな声が聞こえたと思ったら、ブチと通話が切れた。
「リリィ!?…くそっ…」
「おい、ヒソカ!何があった?」
「リリィに何かあったの?」
後ろを走る2人がヒソカに声を掛けるが、今の彼はそれを説明してやれる程の余裕など持ち合わせていなかった。
―…間に合ってくれ…
ただその一心で足を動かした。