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『………』
朝、目を覚ました瞬間…やってしまったと溜め息が漏れる。
何がいけなかったのか…痛む頭でそんなことを考えながら、怠い体を起こし、引き出しから体温計を出す。脇に挟み5分…表示された数字に頭を抱えた。
38.4℃…仕事は無理だな…とベッドに身を投げた。
私は年に数回体調を崩す。でも、困ったことに毒が効かない私は薬も効かない。その為、体調を崩しても病院へ行くとこは疎か、市販の風邪薬を飲むことすら出来ない。
つまり、自然に治るのを待つしかないのだ。取り敢えず、只管寝る。これしか出来ない…布団を被り、目を閉じた…。
…どのくらい寝たのか…グツグツと籠った音で目が覚めた。次いで鼻を掠めた美味しそうな匂い。
『…ん』
「おや。目が覚めたんだね…」
すぐ横に座っていたのはよく知る赤髪の男性。
『…ひそ、か…さん…?』
体を起こし彼の名前を呼んだつもりが、思ったよりも声が出なかった。
「声が掠れているね…具合はどうだい?」
『…少し、寒気が…』
さっきまで無かった症状…熱も上がってそうだな…
「食事は?」
背に手を回し支えてくれるヒソカさんにゆっくりと首を振る。
「やっぱり…いつも言ってるだろう?具合の悪い時には栄養のある物を食べなくちゃ…」
言いながら私を毛布で包み、そのまま抱き上げソファーに運ぶと…
「ちょっと待っててね」
キッチンの方へ歩いて行った。ぼんやり眺めていると、隣に腰を下ろしたヒソカさんが、私の目の前に何か差し出してきた。
「はい、あーん」
『…ん、む…』
何かも分からないまま、私は素直に口を開ける。甘くて、柔らかくて、少しだけ酸っぱい。
『リンゴ?』
「そ。ハチミツ煮」
『…おいしい』
暖かいリンゴが喉を通り、胃に落ちていく。飲み込んだタイミングで一口に切られたリンゴが口元に運ばれる。胃がじんわりと暖まり心地いい…さっきまでの寒気も少し治まり、体力のない体が眠気を訴える。
「眠たくなったのかい?」
コクンと頷けば、またベッドまで運び寝かせてくれる。この人は私をよく甘やかす…出逢った時もそうだった。
―大丈夫。ボクと一緒においで…キミを…助けてあげる…―静かに布団を掛け、あの日と同じように優しい笑みを向けてくれる。
「おやすみ、リリィ…」
頭をゆるゆると撫でるヒソカさんの手が暖かくて、私は程なくして眠りに落ちた。