最初は、女に免疫のない先輩をちょっとからかっているだけだった。 少しのことでオレのことをボカスカ殴ったり蹴ったりする横暴な先輩が困ったり怒ったり恥ずかしがったりするとこを眺めて溜飲さげるつもりだったのに、いつの間にか少しだけ遊んでやろうとかっていう軽い気持ちになって手を出したら……オレの方がいつの間にかマジになってしまった。 「先輩……大丈夫っスか」 オレの腕の中にすっぽりと納まった先輩はぎゅうっと凛々しい眉根を寄せてふっ、ふっと短い息をついている。きっと全然大丈夫じゃないのに、オレに気を使ってこくこくとうなずいてくれている。戸惑うようにオレの背中に回された腕にたまらない気持ちにさせる。先輩を苦しめているのはオレなのに。オレが先輩の中にいるから先輩はこんなに苦しがっている。それなのに、オレはこんなに気持ちがいい。先輩の狭い粘膜が膨らんだオレの欲望をくるんでくれているからだ。少しキツイけど、たまらくイイ。先輩を無理矢理揺さぶってしまいたい衝動を抑えるのが辛い。けど、先輩の辛さはこんなもんじゃないだろう。 餌を前にして待てをする犬みたいに先輩の中がオレの形に慣れてくれるのを待った。我慢、我慢と何度も頭の中でおまじないみたいに繰り返す。オレが犬なら、舌をだらしなく垂らして、口の周りを涎だらけにして、キューンと鳴いていただろう。みっともないけど、もうぎりぎり。余裕なんてない。 するのは初めてじゃないけど、対面座位は初めてで、先輩の中はなかなか慣れてくれない。けど、興奮しまくったオレの体は堪え性がなくて、もぞもぞと動いてしまった。 「っぁう」 先輩の背中がビクリと動いた。きっと痛かったんだろう。 「す、すみません!」 「い、いい……いいから、好きに動けよ」 「でも……」 「う、動いて……やれなくて、悪いな」 先輩がオレの顔を見下ろすように覗き込んで、いつも強気の瞳を潤ませていた。 馬鹿なオレはこうして何度もこの人の情の深さに打ちのめされてきた。試合をしているときも、練習をしているときも、抱き合っているときも、笠松さんに胸を熱くさせられる。 過去を小手先で生きてきたオレは、今を全力で生きている。先輩といられる瞬間だから、精一杯生きたい。 そんな気持ちになった。オレは先輩に変えられた。それが、たまらく気持ちいい。 「好きです。笠松先輩、あなたが好きなんです!」 震えるくらい、この人が好きだ。 「き、せ……きせ……」 先輩はオレの頭をぎゅっと抱きしめてくれた。 肌を通して、先輩の心臓の音が聞こえる。早い鼓動が愛しくて、目の前にある先輩の胸にキスをした。そこかしこを吸っていると、赤みを帯びたぷっちりとした乳首に唇が触れる。唇を絶妙な固さで押し返されると、オレの口の中にじわりと甘い唾液が沸いてくる。涎を飲み込む暇もなく、口をあけて目の前の赤い果実のような粒に吸い付いた。テクもなにもあったもんじゃなくて、まるで赤ん坊がミルクを吸うみたいに、ちゅっちゅっと音を立てて吸っていると先輩が首をのけぞらせながら音を立てないでくれと蚊のなくような声で訴えた。 先輩の顔が真っ赤になっているのが見えて、爆発しそうになるのをぐっとこらえるとオレは舌の動きを変えた。 つんと尖った乳首の先端を確かめるように舌先全体を使ってつーっと舐めあげる。限界まで勃った乳首はオレの舌をつるりとした感触で押し返す。これ、癖になるくらい舌触りがよくて、いつまでも舐めたりしゃぶってたりしたくなる。 「ん、ぁああっ!」 先輩の声が艶っぽかった。先輩の中がひくりひくりと蠢いた。ちょっとなじんで来てくれたみたいでほっとする。 それなのにオレときたら、汗の味と匂いに、コートでの先輩を彷彿させられて……激しく興奮してしてとうとう腰を動かしてしまった。もうちょっと気持ちよくなってもらってから動かなくちゃ、先輩に愉しんでもらえないのに。 「あっ、あぅっ……」 「す、すみませっ……でも、止まんねぇス……き、きもちいっ!」 駄目だ、とまらなきゃ。先輩はまだなのに。でも、好きな人の中は気持ちが良すぎる。 「謝まん、な……お、お前がよけりゃ、オレもじきよくなるから……」 先輩が息も絶え絶えに言った台詞にオレは腰を振りながらマジで鼻血と精液がいっぺんに出そうになった。 そっからはもう、先輩好き、先輩好き、としか考えられなくて、オレはガツガツと先輩を突き上げて、先輩の奥の奥を捏ねては抉って、抉っては捏ねた。 こんなに乱暴にしたら、されている方は快くないだろう。女の子だったら、絶対に泣かれているに違いない。なのに、先輩のさっきの言葉に嘘はなかったみたいで。 「あっ、んっ……黄瀬、黄瀬ぇ……はっ……ああぁ」 オレの耳元に吹き込まれる喘ぎが蕩けそうに甘くなっていて、オレの脳髄も蕩けそうになった。 もう、何度ともなく持っていかれそうになるのを堪えた。できるだけ、一緒のタイミングにイキたい。 なのに、そんな努力をあざ笑うかのように先輩は両手と両足をオレの腰と首に絡めてホールドしてきた。俗にいう、だいしゅきホールドってヤツだ。同時に、先輩の中はいつ射精してもおかしくないオレの勃起をぎゅーっと絞り上げた。 「う、おっ!!せ、せんぱいっ!せんぱいっ!あ、ぅぁ……そんなにされたら、こ、困るっス」 腰のグラインドを止めて、情けない声で懇願しても、先輩は聞いてくれなかった。 それどころか、先輩が腰をゆすゆすと揺すって動いてくる。そこに衒いはなくて、まるで物事に没頭する子供のような仕草だった。 「あっ……ん……黄瀬ぇ」 もっととは言われなかったけど、催促されているとわかって、クラリとした。あの笠松先輩にねだられている。こんなの初めてだ。もう駄目だ、動いてる場合じゃない。抜かなきゃ。動いてないけど出ちまうよ!と思った瞬間、オレは左耳に暖かく滑った感触を感じた。 「え?」 オレが硬直していると、ちゅっというリップ音と……にゅるにゅると何度もピアスごと耳朶を舐る感触。 歯がピアスリングをカチリ…と噛む硬質で密やかな音が鼓膜を犯す。そのままゆっくりとビアスを引っ張られて、耳朶が攣れる。その張られた状態を愉しむみたいに笠松先輩の舌が悪戯に絡まってくる。 なんて、淫靡なのだろう。 「せ、先輩……っ!先輩っ、オレ……ああぁぁあっ!」 勃起したモノを引き抜く暇も、先輩の中を一突きする暇もなく、オレはその一瞬にイカされてしまった。 先輩の腹の中にびゅっ、びゅっと精液を噴き出す僅か数秒の間に、先輩はあっと驚いたような一際高い声を上げると硬直し、オレの腹に二度、三度と飛沫を叩きつけた。 嗚呼、もしかするとオレはとでもない人を好きになってしまったのかもしれない。ちょっとした好奇心だったのに、今ではオレの方が駄目になってしまった。 嵌りこんで抜け出せそうにない。抜け出したいとも、思わないんスけどね。 了 |