玉響を斬るが如く繰り出される凶刃を数え切れぬほど幾太刀も幾太刀もこの身に受け、着物、髪、皮膚、肉と切り刻まれていく。
 見切った斬撃は全て躱した。軽い撃ち込みは全て防いだ。しかし、それでは追いつかぬ程に三成の憤怒悲嘆で彩られた刃は苛烈を極めた。
 死ね。
 貴様を許さない。
 貴様は俺から秀吉様を奪った!
 私から絶対にして唯一の絆を奪った!
 その貴様が絆などと嘯くなぁっ!
 留まる事を知らぬ三成の絶望と憎悪は無数の刃となって家康の心(しん)に襲い掛かる。
 家康はその凶暴な熱情を、うちに迎え入れるがごとく、一身に浴びた。
 心を守るものなど、何一つ不要。
 目を閉ざさない。耳を塞がない。
 激昂する青褪めた美しい顔で三成は腸から血反吐を搾り出すかのように家康の名を呼ぶ。
 肌身を以って、知る三成の痛み。
 防ごうとしたところで、防ぎきれぬ。
 防げたところで、そうはしたくはない。
 言い訳もできぬ。問答も無用。
 これは、純然たる家康の罪咎。
 酷烈な痛みは断罪の触。
 死ね、死ねぇッ!
 止むことのない三成の慟哭は家康の心を刺し貫き、身を切り裂いていく。
 もし、三成の心が平らかに円く満ちるというのであれば、家康は進んでこの首級を差し出し三成の刀の錆となってもいい・・・そう思ったのは戯れではなく、誠だった。
 しかし、家康の極めて私的な誠が罷り通ることはなかった。
 掲げた志が、一軍の大将としてこの大戦でたくさんのものと想い想われ培われた絆が、家康が自らに耽ること
 を許しはしない。
 家康には三成と秀吉の絆を奪ってでも、成し遂げたい大願があった。
 家康は拳を固めると守りから攻めに転じ、三成の連撃を止めるための強引な一撃を放った。一瞬の間も置かず、脇を締めてそのまま二、三発拳を打ち込んで間をつくると、ひとたび後方に退き三成の間合いから逃れた。
 血に塗れた白が、家康の肉体ではなく空を斬る。
 いえやすうぅ!
 三成は喉が潰れる程に名を呼び、激情を迸らせる・・・家康はそれを拒みはしない。受容れる。体の奥、骨の髄にまで火華が迸る。恍惚感にも似た痺れだった。
 嗚呼、絆されている。
 歪で悲愴ではあるが、二人繋がっている。これしかないというのなら、これでいい。
 互いに認めあい、愛しみあうだけが絆ではないのだから。


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