Le ciel croche | ナノ

 鼻の頭をちくちくと容赦なく刺していく北風にため息ひとつ。ほわり、目に見える色をもって膨らんだ寒さの指標に、きゅっと身体が縮こまる。

「あっ」

 そんなあたしとは対照的に、となりから上がった喜色を孕んだ声。もぞりと首だけで振り向いてみれば、目を輝かせたチョッパーがあたしの吐息の溶けたあとを眺めていた。
 微かに残っていた欠片が風に流されて、一拍置いて。ふうっと一息、彼は自ら敢えてつくりだした“それ”に感嘆の声をあげる。

「わたあめみたいだ……」

 冬島出身の彼の口から零れた意外な感想。まるで初めて見たかのようなその言葉に、がちがちに強ばっていた頬が、思わずゆるりと緩んだ。

「……ドラム島の方が寒くなかったっけ?」
「ん? うん。ここよりもっと寒いぞ」
「そしたら、それこそ本物みたいに見えそうだね」
「そうだなぁ」

 あたし達が声を発する度に生まれる、チョッパーお気に入りの甘いお菓子に似たそれ。次々と浮かんでは消えるそれにちらちらと楽しげな視線をやりながら、彼は「でも」と言葉を続ける。

「おれ、海に出るまで、わたあめって見たことも聞いたこともなかったから」

 ――気にも留めていなかった当たり前の現象に、こんなにわくわくするなんて。

「そっか」

 つい寒さも忘れて、特大のわたあめが出来るくらいにふっと笑いが零れた。その分を取り戻すように吸い込んだ空気で、鼻と喉の奥がツンとする。
 ……寒いのは苦手で、身体の外側からも内側からもちくちく刺さるような空気も苦手で。
 それでも、少なくともこれからは、まっしろな吐息の残像くらいは、わりと好きになれるかもしれないな、と思ったりして。

「……あたしもだよ」
「え? ニーナもわたあめ食べたこと無かったのか?」
「ふふっ、どうかなぁ」
「……へ?」

 頭上に疑問符をいっぱい浮かべるチョッパーと、同じ角度で首を傾げてみる。ますます訳が分からないといった表情であたしを見つめる彼のもこもこの毛皮に、ぽすりと両手をつっこんだ。










冬島海域接近中。



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