嫌な夢をみた、ような気がする
はっきりとは覚えちゃいないが、誰かが去っていくような消えていくような胸くそ悪い夢だった、気がする

いまいちスッキリしねぇ寝覚めだな
時計を見れば午前四時を少し過ぎたところだ
今日はまだ任務も入ってないし、落ち着いて就寝できる珍しい日だというのに、なんて夢見だチクショウ

手を伸ばした水差しは既に空、ああ踏んだり蹴ったりだ


「チッ、メンドクセェ…」


食堂まで歩くかこのまま眠るか
少し考えたが何となく、食堂まで行くことにした




「はい、軟水にしたから飲みやすいとおもう」

「悪いな」

「おや珍しい」


花子から水差しを受け取り礼を言うと目を丸くして驚かれた
斬るぞコラ

いつ何時任務が入るか分からないこの教団の食堂はご苦労なことにフルタイム営業だ(金は払っちゃいないが)

先ほどから喉が乾きっぱなしだった為にその場でグラスを借りて冷水を飲み下す
どくどくと食道を流れる感覚に背筋が震えた


「悪い夢でも見た?」

「そんなんじゃねぇ」

「アハハ、そっか」


花子の後ろでは料理人やらその下っ端やらが忙しなく働いている
いつもの光景、だが妙に落ち着いている目の前のそいつには違和感を覚えた


「この間さ、たっくさん死んじゃったんだって」

「あ?」

「探索部隊のひとたち」

「………」

「人手不足って訳ですよ」


意味が分からねぇ、ハッキリしろと口を開きかけたことを後悔した


「赤紙がさ、来ちゃった訳ですよ」


あかがみ、なんてここで通じるのは俺くらいだ
誰にきたなんて聞かなくても分かる
このご時世だと憂うのも嘆くのも、俺の性に合わないだけ だ


「ははっ、口開きっぱ」


カウンターから身を乗り出して、花子は俺のくちと自分のくちを重ねた




嫌な夢をみた、ような気がする
はっきりとは覚えちゃいないが、誰かがっていくようなえていくような胸くそ悪い夢だった、気がする



どうかどうか倖せに、どうぞどうぞ健やかに、それではみなさん、さようなら
081021

 


T O P

- ナノ -