世界が夜と黒と寂しさで出来てたらイイのに。
喜びとか楽しさとか、倖せのない寂寞の世界だったなら、私がこんな辛い思いをすることもなかった。
痛いのも苦しいのも嫌。
でもそれを拒否することは出来なくて、させてもらえなくて、我慢 するしかないのかなあ。



あちこちから集まるレベル1のアクマから逃げるのが精一杯だった。
立ち向かう勇気はないから、来るかも分からない増援もしくはエクソシスト様に期待だけはしておく。
もうタリズマンも破壊されてしまったし、次に見つかれば終わりだ。
万策尽きたし。
あーもー!!
なんで死ななければいけないの?
力がないから?(欲しいといくら願ったところで選ばれやしない)
探索部隊に入ったから?(家族の為よ、仕方がなかった)
運が悪かった?(祈りの意味はなんだと言うの神さま)


「もういやだ」


世界の創造主たる神さま、一刻も早くここから光を取り去ってください。
夜と黒で創りなおしてください。
希望も夢も倖せもない世界でなら、アクマにも立ち向かえる気がするから。


「ギャギャギャ!見ヅゲダ!!!」


歪んだ笑顔とノイズみたいな声が私を殺していく。


「花子!!」

「ぶへっ!」


名前を呼ばれた驚きと、何かがぶつかってきた衝撃で情けない声を出してしまった。
柔らかく私を包む何かを見上げたら、燃え盛る炎のような髪の人が真っ白い顔をして私を見下ろしていた。


「…無事か?」

「っ、ら、らび様」

「ラビで良いさ。花子のが年上なんだし」


私の様子をみて安心したように息を吐いたその人は、最近知り合ったエクソシストのラビ様だった。
穏やかに微笑む顔にうっすら汗と血が流れているのが見えて、私は全身から血の気が引いてしまった。


「ラビ様、お怪我を!?」

「こんくらい平気さ」


男らしく額を拭い、ラビ様は手にした槌を振り上げて叫ぶ。


「大槌小槌、満満満!」


一瞬にして巨大化した槌を前にして、アクマは慌てて逃げようとするもあっという間に潰されて消えた。周りにいたアクマ達も、ラビ様が槌を一振り二振りするとみんな消えていなくなった。

末端の末端、更に下っ端のパシリみたいな私がエクソシスト様とアクマの戦いを観るなんてこれが初めてで、開いた口が塞がらないという言葉はこういうことかと納得した。


「立てるか?」

「え、いや、うぇ!?」


差し出された手を掴むのに躊躇していたら、ぐいと腕を掴まれてムリヤリ起こされた。
殺される恐怖と助けられた安心感から高ぶった私の身体はガクガク震えて、今まさに立ち上がろうとする子鹿のようだった。


「これじゃあ歩けないさ」

「あ、後始末もありますし私はここに残って、」

「ダーメ、連れて帰る」

「っひゃあ!?あの、あのあの!」

「大人しくするさ」


この歳になってまさかお姫様抱っこされるなんて、夢にも見なかった。
しかも相手は年下の男の子で見た感じは私より細くて、それ以前に私より立場が上のエクソシスト様で!!!
立場上助けられたりしたら上司に怒られますって言ったら、その上司ボッコボコにするなんて物騒な答えが返ってきた。


「や、でもほら!重いじゃないですか、」

「男心の分からん奴さ…」

「え?え?」


挙動不信になる私をよそにラビ様は足取り軽く教団に戻ろうとする。
ふと、ゆっくり流れる景色にまぶしい光が射した。


「一晩中、よく頑張ったな」


薄暗い黒を取り払うような日の光は、煌々として目が焼けてしまいそうなほどで。
あんなに夜を望んでいたのに、生きているのが苦しかったのに。
ラビ様から伝わるあたたかさが私の全部を包んでくれてるようで、安心したら涙が溢れてきた。


「もう怖くないから、な?」

「はい…はい…!」


エクソシスト様にはアクマだけじゃなくて人間の心まで浄化するお力があるのだろうか。
逞しいラビ様の腕に支えられて、泣き疲れた私はいつの間にか眠ってしまっていた。

途中で合流したブックマン様にラビ様がからかわれていたことを知るのはあと数時間後。

「生殺しだな」

「うるせ!」



おしまい
120419



 


T O P

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