「ちょっと待ってよ、ラビ!」


あたしより足が長いことを良いことにひょいひょい人混みを避けて歩くラビの姿はもう見えなかった
コムイ室長に頼まれて街まで来たのだけど、これじゃあ時間に遅れてしまう
買うものリストはラビに渡しちゃってるし、この歳で迷子になんてなりたくはないし


「だからリナリーと行きたかったのに…」


買い物は常にリナリーと一緒に行くのがあたしのスタンスなのに、どうして今日ばかりラビなんだろう

別にラビが嫌いとかそんなことはないけれど、なんかあいつの飄々とした態度と胡散臭い笑顔を見ていると泣きたくなる

同じ場所にいるはずなのに、見えない境界線があるみたいで


「…寂しいじゃんか」

「俺がいないと?」

「うわっ!!」


先に行ったと思ったラビが急に目の前に現れたものだから、勢いでぶつかってしまう
慌てて体勢を立て直して謝ったら、なんでか礼を言われた
は?

「俺も花子が見当たらなくて寂しかった」

「ば、ばばバカじゃないの!一人でさっさと歩いてったくせにっ」


てゆーかあたしは別に置いて行かれたから寂しかった訳じゃないし!

何回言ってもラビはニヤニヤ笑うだけであたしの話なんか聞いちゃいない


「んじゃ、今度ははぐれないように手でも繋ぐさ」

「ちょっと、勝手に…!」


ポケットに突っ込んでいた左手を無理矢理握ってラビはお決まりの飄々とした態度で歩いていく
さっきより少しだけ緩い歩調で、あたしに気を遣って、ちらちらあたしを見ながら


「(だめだ、泣きそう)」


ぎゅっと目を瞑って、霞んだ視界をクリアにもどす
どうしたってこの境界線があるのなら、ギリギリまで側にいくぐらいなら許される、のかな


「ラビ、あたし左じゃなくて右がいい」

「はいよ」



おわり。




世界、翡翠色にきらめいて
091014

 


T O P

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