「寒いのであっためてください」 そう言ったらどんな反応をしてくれるだろう、きっかけはそんなものだった。 まずは金ピカこと英雄王ギルガメッシュ様に言ってみた。 「雑種風情はその辺で凍えていろ」 とか言いながらも宝物庫からやたら高そうな上品質の毛布を投げつけられた。ちょうあったかい。やわらかいし肌触りが最高だ。 ギル様は何だかんだ言って優しい。 次に征服王ことイスカンダル様にも言ってみた。 「では余とこのうぃすぽーつとやらをしようではないか!」 にっこり笑顔でコントローラーを渡されて、二時間近くテニス勝負した。へろへろ。でも確かにあったかくなった。 文明好きな彼らしい方法だ。 さすがに汗をかいたので、一度自室に戻りシャワーを浴びる。 次は誰のところに行こうかなと考えながらバスルームを出ると、寝室に青髭ことジル・ド・レェ伯爵がいた。なぜかベッドで飛び跳ねながら。 「あのそれ下の階の人に怒られるんでやめてください」 「防音対策はしっかりと」 ああそうですか。ため息混じりに応えると、彼は満足そうな笑顔で跳び続ける。一体なにしに来たんだ。 「花子、こちらへ」 ベッドのスプリングを酷使する伯爵が、急に飛ぶのを止めて私を呼んだ。 何事かと近づくと、伯爵の大きな身体に包み込まれた。つまり抱き締められている。激しい運動のせいで通常より倍の速さで躍動する心臓や、上昇した体温が湯冷めしかかった私の身体を再度あたためた。 「気温を上げる魔術とかなかったんですか」 「魔術を使わずにあなたの願いを叶えるにはどうしたら良いのか龍之介に尋ねたところ、これが良策だと」 「騙されてますよそれ」 でも実際あったかいから、間違いではないかな。雨生さんへの小言は後日改めて本人に言おう。 輝く貌ことディルムッド様は最後のお楽しみにとっておくとして、次はバーサーカーの元へ行くことに決めた。んだけどバーサーカーはセイバーの追っかけ中で声をかけることすら叶わなかった。ちなみにセイバーにも声をかけられなかった。がんばって逃げ切ってください。 大変そうな二人を残してアサシンのところに向かう。 「これはこれは、珍しいお客様だ」 げ。言峰綺礼。 いやらしい笑顔で出迎えられて早速帰りたくなった。ハサンはどこですかと聞く前に、誰かに手を引っ張られる。 振り向くと、小さな女の子がこちらを見上げて手を握っていた。ハサンの仮面がじっと私を見つめている。 「かわいい…!」 抱き上げて高い高いしようとして、白いワンピースがぴらりと舞う。 おいこれはマズいんじゃないか。 「パンツくらい買ってあげてください」 「見えそうで見えない、それはロマンだよ花子」 さぁぁぁと血の気のひく音がする。さむい。この教会はさむすぎる。 幼女ハサンに憐れみの視線を向けつつ、腕を放した。 あなたは呼び出されても出てこないほうがいいよ。バーサーカーのマスターに連れてかれちゃうよ気をつけて…! 私の心の声が通じたのか、幼女ハサンは小さく頷くと音もなく霊体化した。 言峰綺礼はあとで通報する。きめぇ。 さて、お待ちかねのディルムッドの番ですが。 「俺にどうしろって言うんです」 「寒いのであっためてください」 相変わらずのイケメンが困り顔でため息を吐く。麗しい。何がって、もう、佇まいからすべて。 「ブランケットに運動に包容、充分じゃないか」 「あれ何で知ってるの」 そう言うと困り顔が呆れ顔に変わる。各々が彼に報告にでもきたのだろうか。サーヴァント同士、仲良きことは美しきかな。 「報告ではなく、自慢です」 「自慢?」 訳が分からずに首をひねる。自慢するようなことあったか?考えても思い当たる節がない。 どういう意味か聞こうとすると、先回りしたディルムッドがまたため息を吐いた。盛大に。 「貴女のお気に入りである俺を差し置いて、先に自分の元へ来たのだと」 「ああ〜」 常日頃ランサー陣営にばかりちょっかいを出し、何かあればいの一番に彼を頼る私の姿をみてディルムッドをお気に入りだと思ったということか。 確かに間違いではないが、だとしても訊ねる順番が自慢になることに繋がらない。困った。 「最後だからすねてるの?」 「俺を『お気に入り』だとするなら、今後は気を付けて頂きたい」 「なんかマズかった…?」 「貴女を待っている間、気が気ではなかった」 「あのそれは」 「王たる二人は気高い応対であったと言えるがあの外道めは俺自らが二本の槍にて制裁を与えなくては気が済まない!」 「ディルムッドさん落ち着いて…!」 「花子」 普段は冷静沈着、クールビューティーを貫く彼がここまで激昂するのも珍しい。冷ややかに名前を呼ばれ、本当なら逃げ出したい気持ちを抑えてディルムッドの傍へいく。 ええいままよ…!! 「ごめんなさ「今ここで許されるなら貴女を抱きたい」い…」 あれいまなんていったのちょっとききとれなかったんだけど 「貴女を抱いても良いだろうか」 囁く声は甘くて切なげで、いつもは真摯な眼差しが熱を孕んでギラギラしてみえる。 一瞬で全身の血が逆流したみたいに熱くて、冷や汗か脂汗か分からないけど背中がびっしょりだった。 どどどうしよう! 「…クッ」 くつくつくつくつ 慌てる私をよそに、ディルムッドが急に肩を震わせだした。口を抑えお腹を抱え目尻に涙まで浮かべて笑っている。 「その様子だと、随分暖まったようだ」 「………え?え??」 …つまり、からかわれた、と。驚きと安心感から、ぶわわわわと全身が熱くなる。 「し、心臓止まるかと思った」 「謝りませんよ、俺は悪くない」 「私だって悪くない」 質問にしても順番にしても、私に落ち度はないわけで。それを主張すると輝く貌のまゆ毛がぴくりと動いた。 (行動で示さなければ分からないのか?) (わたしが悪うございました) 111114 T O P |