※妹設定




「間桐家の嫡子がなんてザマですか」

路地裏のゴミ捨て場に仰向けで転がる雁夜を見つけたわたくしは愕然とした。これがあの間桐雁夜だなんて信じられなかった。憧れて、敬愛したお兄様だなんて信じたくなかった。

十一年前、わたくしと鶴野お兄様に間桐のすべてを押し付けて出て行ったこの男は、一年前にふらりと戻ってきたと思ったら、此度の聖杯戦争に参加するなどと大口をたたいたのだ。たった一年で刻印虫を統べるなど、聖杯を獲るより不可能に近い。それを知りながら、雁夜に付け込み雁夜が苦しむ様を愉快愉快と笑っているお父様の目論見にも気付かないで、ただ我武者羅に義妹の為だけに虫に喰われる愚かな男。

けれど、薄く開いた瞳は光を失っていなかった。

「聖杯さえあれば…桜ちゃんを自由に出来る…」

「本当に莫迦なのですね。虫に犯され尽くしたあの娘が真っ当に生きられるとお思いですか?」

「願望機さえあれば可能だ」

「お父様が手放すはずありません」


そこまで言って、わたくしは雁夜に手を伸ばす。


「もしも…もしもあなたが聖杯を手に出来ず不様に死んだのなら、わたくしは小姑のように義妹をこき使ってやりますから」

「……ははっ、それは怖いな」

「掃除に洗濯、お父様の下の世話だって全てですわ」

ぎしりと軋む腕を気遣うことなく引っ張り上げると、雁夜は辛そうに表情を歪めた。張り付いたゴミもそのままに、ドレスが汚れることも気にせず雁夜の肩を担いで歩いた。

「もう放っておけよ、俺のことなんて」

「煩いですわね。わたくしがしたいようにするだけです」

「うぐっ、かはっ!」


びしゃびしゃと吐き出される血と虫が新品のブーツに染みを作った。忌々しい刻印虫を踏み潰し、体勢を崩した雁夜を担ぎ直す。

「…悪いな」

「お気になさらず。不出来な兄を持った妹は苦労するものです」

帰ったら義妹に靴を磨かせてやりますから、と呟くと、雁夜は昔と変わらない笑みを浮かべた。





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111116加筆修正

 


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