白くて白い壁に吊された白いカーテンと、白くて白い枕とベッド。その上に横になる私も、長いこと陽の光をあびていないせいでまっしろだった。私の病気は赤血球まで白くなるのかな。


「よう」

「また来た」

「ひとりきりじゃ寂しいんじゃないかと思ってよ」

「そんなこと言って、先生が私に会いたいだけでしょ」


ノックもなしに病室へずかずか入ってくる荒瀬先生はいつもと同じ緑色の手術服の上から白衣を着ているだけだった。昨日あれほど普段着が見たいと駄々をこねたのに。残念。
失意の視線も先生には届かないようで、お見舞いに届いたお菓子を許可も取らずに勝手に食べている。もうすぐ死んでしまう人間のお願い事くらい、きいてくれたって良いでしょう。


「ばーか、菓子ばっか食うお前はそう簡単に死なねーだろ」

「そうだねえ、きっと苦しんで苦しんで涙を流しながら死ぬんだと思う」

「そーゆー意味で言ったんじゃねーよ」

「いでっ」


病人の頭をグーで殴る先生とか聞いたことない。大した痛みはないけど大袈裟に反応を返したら、荒瀬先生はふと笑顔を消して拳にした手をポケットにしまった。予想外に湿った展開が居心地悪い。どうにかしなくちゃと考えながらお菓子の包みに手を伸ばしたら、荒瀬先生に掴まった。


「……ちゃんと飯食え」

「病院のご飯マズいんだもん」

「それでもちゃんと食べろ」


いつになくシリアスムードな先生は俯いたまま私を見てくれない。脱色した髪が顔を覆って私から先生を突き放そうとする。
私の手を掴んだ先生の手を、もう片方の手で包む。白くて白い二本の腕は、細くて骨ばって、がいこつみたいだった。


「じゃあ先生が食べさせてよ」

「……」

「荒瀬先生の愛情でおいしくしてよ」


手が微かに震えるのを隠そうと、強く先生の手を握る。するとそれよりも倍の強さで握り返されて、思わず泣きそうになった。先生の手のひらはあつくてあつい。きっとそこだけ赤くなっているのだと思うと、ようやく笑えた。




(怖いけどさびしくはないよ)



101119
ついにやってしまた/(^O^)\

 


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