さくら、さくら、と何度呼んでも彼は気が付かない。それはそうだ。私は幽霊と呼ばれるものの類なのだから。
ふらふらとこの地をさまよってどれくらいの月日がたったのかなんて覚えていない。思い出せるのは、さくらを好きになってさくらについてきたということだけ。(ほんとうは他にも覚えているけれど)

さくらは読書が好きで週末は図書館に行ってありとあらゆる本を借りてくる。最近は絵本を借りてきて隣の家の子(いぬのような弟君)に見せている。一見冷たく見えるけれど、さくらはとても優しい。


「花子」

「マリー、こんにちは」


私が見えて私と話せる唯一のお友達のマリーがやってきた。彼女は私と同じだけれど、私とは随分違う。
いぬのような弟君に助けてもらい、さくらに救われたのだと言っていた。マリーが救われたいと願ったわけではない。さくらが彼女を救いたかったというのだ。それはなんて幸福なことだろう。
決して誰が悪いということではないけれど、胸が痛くなる。器からは解放されたのに、心の狭い幽霊だ私は。


「私がリリエンタールにお願いして……」

「ううん…たぶん、私が見えるようになってもさくらが迷惑なだけよ」

「そうかしら…?」

「そうよ。だって幽霊に好かれたって困るじゃない。成長しないし、半分透けてるし、触れないし。手を繋ぐことも抱きしめることもできない。じっと側についているだけなら見えない方がお互いに良いのよ」


早口に言うと、マリーは相づちを一度だけ返して黙った。だから私も口を閉ざして、さくらを見続けることにした。おわり。



だれかのねがいがかなうころ
100524
101202加筆修正

 


T O P

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