「人を見下してる間は上にいけないんだよ。下ばっか見ててさ、自分自身が誰かに見下されているのに気が付かないの」

「なら、花子はどこを見ているの。私はどこを見ていれば良いの?」

「真っ直ぐ。ただ真っ直ぐに自分を見ているの」


花子はそう言って、私ではないどこかを見て微笑んだ。





アロウズに入隊して初めて笑える様になったのは花子の前だったことを覚えている。
同じ年齢に同じ階級、同性ということも重なって花子とは直ぐに打ち解けて話せるようになった。
両親の死や紗慈の事を口にする時は少しだけ声が震えたけれど、花子はただじっと私の話を聞いてくれた。同情でもなく、情けでもなく、ただ一緒にいてくれた。側にいてくれた。
ソレスタルビーイングによって壊された私の中の何かが、少しずつ癒されていくような気がした。

模擬戦闘訓練で対戦相手に当たった時は互いに遠慮しなさすぎて長官に罰を受けたこともある。
量産型のGN-Xを見事なまでに大破させたにも関わらず、私も花子も軽度の火傷しか負わなかったから治療室で二人して大笑いした。
訓練を重ね、実戦へ赴き、曹長から准尉へ階級が上がった日は馬鹿みたいにお祝いして。まるで日本に留学していた頃のようだった。

私の側には花子がいて当たり前、何をするにも一緒だった私たちが離れることがあるとするなら。それはきっと死別しかないのだと、思っていた。


「花子が…造反って、」

「先日脱獄したソレスタルビーイングと共に姿を消した。隊の一人がオレンジの機体に乗り込む姿を目撃したとピーリス少尉からの証言もある」

「そんな…嘘です、何かの間違いです!」

「君は彼女と仲が良かったらしいな。……気の毒に」

「そんな、花子が私を置いて、違う、なんで…うそ…」


震える両腕で頭を抱え、私は座り込んだ。
さすがに直接ソレスタルビーイングの襲撃を受けたとなれば、互いに死を覚悟する。
召集されたメンバーの中に花子がいないことに気が付かないフリをしたかったけれど、長官から告げられた被害の数と逃げ出した反政府組織の人々の名前の最後に、花子がソレスタルビーイングの一員であったと 溜め息混じりに告げられた。


「恐らく造反ではなく、スパイだ」


アロウズにソレスタルビーイングの入隊を許すなんて知れたら世間体が悪い。だから花子は今回の件で殉職したことになった。

造反じゃない。
最初から、全て計画されたことだった、のだろうか。


「なんで……なら、私は…?」


私のことも計画遂行の為の一部だったの?


「何もかも、あいつらにぶち壊されていく……」


何よりも大切な両親も、誰よりも好きだった紗慈も、隣にいてくれた親友も、何もかも。
ガンダムってなに、そんなに偉いの?
戦争根絶なんて夢語るだけで散った組織が、どうして私と関わってくるの?
パパもママも紗慈も花子も、どうして私から奪っていくの?


「もう…やだ……」


上も下も真っ暗で右も左も分からない今、私は何を真っ直ぐに見ていればいいんだろう。




さようならじゃないなにか
090219

 


T O P

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