現代パロディ



「うわっ汚!!」


徹夜明けのデートは私の家で、と招いてみたがやはり予想通りの反応だ。
今までお付き合いしてきた男はみんなこの部屋にドン引きして別れようと言ってきた。
男の部屋が散らかっているのは仕方がない、で済むのに女の部屋が汚いと別れるって不公平だ。
掃除をしない言い訳にしかならないけれど。

今回も無理かな。アレン君きれい好きで几帳面でやや潔癖だし(ご飯を食べるとき以外は)
彼女が売れっ子作家ってところまではみんな優越感で優しくしてくれるんだけど、現状はこうだもんな。戦場だもんな。


「…ごめん」

「謝る暇があるならさっさとゴミ袋用意してください。あとマスクも。無かったら綺麗なハンカチで良いです」

「え、マスク?なんで、ってそこには大事な資料が…!」


アレン君はお構いなしに散らばった紙を踏みつけて部屋中の窓という窓を開けてしまった。
眩しい!部屋の中にいるのに眩しい!


「あの、私徹夜明けで、動くの辛いんだけど…」

「なら邪魔しない程度にその辺の資料とやらを分別して寝てて下さい。分別されてないものはゴミと見なします」


いつも優しいアレン君がお部屋掃除のプロフェッショナルに変わってしまった。
ものすごい勢いでゴミ袋がいっぱいになる様を見ながら、捨てられたら困るものだけ近くにあった箱に詰めた。


「も…むり……」


耳鳴りは止まないし眩暈はするしで限界だった。寝室に行くことさえ億劫で、ソファで眠ろうと思ったことは覚えているが、果たしてソファまでたどり着けただろうか。



*****


「んむっ……っ、っ、ぷはぁ!?」

「おはようございます」


息苦しくて目が覚めたら至近距離でアレン君と目があった。
あんまり近いから、恥ずかしくて顔を逸らすとほっぺたにキスされた。
うわああああ!


「やめっはずっあれっ」

「寝ぼけてるんですか?かわいいなあ」

「止めてえええ」


なんだこれ。アレン君がアレン君じゃないみたい。
褒められることに慣れてない私に世辞でも褒め言葉は使わないで、とお願いしてからアレン君が破ったことないの に。
ちゅっちゅっと顔の至るところにキスされたり何かにつけて褒められたり(肌がきれいですね)(睫長いですね)(大好きです)、恥ずかしくて頭に血が昇って倒れそうだ。


「なんで急に…!」

「花子がずっと隠してきた自室の秘密を教えてくれたから、僕も隠すのは止そうって思ったんです」

「隠すって?」

「僕の全部。花子への想いとか」


今まで見てきたアレン君が嘘だとは思わないけど、まさかこんなに大胆な人だったなんて。
ほんのちょっと怖いところも、口が悪くなるところも、それが全部アレン君で、私が大好きなアレン君で。


「前に好きだった人にね、汚い女には興味ないってフられたの」

「ぶっ殺しに行きます?」

「……ううん、それよりもアレン君とお昼寝がしたい」

「こっち向いて言って下さい」

「やだ、恥ずかしい」

「……ならこのまましますよ」


何をって聞くまえにむぎゅって二つの胸を鷲掴みにされた。いつもの色気はどうしたの!
順番が大事とか雰囲気がどうのって照れ臭そうに私に触れてくる両手が、今は狼みたいに荒々しくて、なんだかおかしかった。


「なに笑ってるんですか」

「だってアレン君、中学生みたい…!あははっ」

「…随分余裕ですね?」


あ。
これはマズい。こんな腹黒い表情は見たことがない。


「アレン君、お昼寝しようよ」

「もう無理です」





おわり



砂糖とバターで召し上がれ!
090819

 


T O P

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