\めいん/ | ナノ




赤い 赤い

とてもキレイな髪だと思った。モルジアナの髪は、とてもキレイな色をしていた。
ちょっと前まで奴隷だったせいで、手入れはされていなくてよく見ると枝毛もあったりするけれど。それでもとてもキレイな髪をしていた。

「ね、モルジアナ」
「はい、ショウ様」
「もう、様はつけなくていいって言ってるのに!」
「すみません、つい」

敬語もいらないって言うの何度目だろ。もうモルジアナは奴隷ではないんだから。

「まあいいや、それよりさ」
「?」
「髪の毛さわらしてよ」

そう言うとモルジアナはきょとんと首を傾げてみせた。うおお可愛いな。
頭を動かすのと一緒に赤い髪もさらりと揺れる。

お兄さまはどうしてあのキレイな髪を短く切っていたんだろう。奴隷の髪なんて理髪師は誰も触りたがらないし、散発代もバカにならない。鎖代わりに引っ張る用途もあるから、大抵の奴隷は髪を長くするのが普通だった。まあ、あのボンクラの考えることなんて理解したくもないからこの際考えないことにするけど、機会があったらモルジアナ本人に聞いてみよう。

「すごくキレイだからさ、その赤毛」
「…どうぞ、ご自由に」

きょとん顔からちょっと不服そうな表情をしてモルジアナは私の手が届く距離に来てくれた。髪の毛より少し薄い色の目も、キレイだなあ。ご自由にという言葉に甘えて、私は思う存分彼女の髪を堪能することにした。
肩にかかる毛先を撫でたり前髪をいじったり、どんな香油が合うか妄想したり。

「その、楽しいですか」
「うん、とっても!」
「はあ」
「ね、これ可愛くないから別の紐にしようよ」

汚れてほつれている髪紐を指して言うと、急にモルジアナは顔色を変えて私から離れた。あれ、何か気に障ること言ったかな。今度は私がきょとんと首を傾げる番だった。
そんな私の態度に気付いたモルジアナは視線を泳がせてから、小さい声でジャミル様、と呟いた。

「ジャミル様に、頂いたものなので、これは」

頂いたなんて言うと恭しい光景を想像するけど、実際はお兄さまが彼女を打つために用意した紐だ。それを知っているからこそ、こんな紐さっさと捨てて欲しくてワザと言ったんだけど。

モルジアナは未だにお兄さまをダンジョンに残してきたことを後悔している節がある。あんな人、生きていたって他人様に迷惑をかけるだけ、私は構わないと何度言っても、彼女は私に頭を下げることを止めない。忘れてくれていいのに。奴隷だったことなんか忘れて、幸せになってほしいのに。

「お兄さま…ジャミルのこと、好きだった?」
「好きというか、主として、」
「尊敬も敬愛もないでしょ。あなたを虐げた人だよ」

もちろんそれは私も同じなのだが。
モルジアナは逡巡してから口を開いた。

「どんな理由であれ、育てていただいたことに変わりありません」

凛とした瞳が迷いなく私を見つめる。
キレイな赤毛の女の子は、どこまでもまっすぐで馬鹿みたいにお人好しだった。開放された奴隷の考えることといったら、普通は主への復讐とか、そんなんでしょう?直接手を出していないとはいえ、私はジャミルの実の妹だ。暴君であった兄の代わりに死ねと言われてもおかしくない。それなのに、モルジアナといったら。

ふざけるなって突き飛ばされるのを覚悟して私はモルジアナに抱きついた。

「〜〜ッ!!」
「!!?」
「あのね、モルジアナ」
「はい」
「いっぱいいっぱい、酷いことしたけど、私、モルジアナのこと、すきだよ」
「………」

随分勝手なことを言っているのは分かってる。殺さないでくれ、許してくれって頭を下げているように見えるかも知れない。例え拒否されても私が伝えたかっただけ。それだけ。

「…あの、」
「……うん」
「あの、私、えっと」
「うん?」
「すき、です。ショウ様のこと」






きっと、責められて責められて、蹴り殺されてしまった方が楽になれるのかも知れない。けど、この先どんなことがあっても、身勝手にも私は彼女の隣にいたいと願ってしまうのだ。


121011
121202加筆修正


 



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