与えるならば無償の愛を

卒業間近なある日、一学年下の(顔はなんとなく覚えていた)女の子から告白を受けた。

他者に愛して貰えるのは、認めて貰えるのは、とても嬉しく幸せなこと。

けれど、恋人にはなれない。
傾く天秤は同等の愛情を返せないから。

彼女が求める言葉じゃないけれど、使い古された言葉に沢山の感謝を込めて龍麻は口を開いた―。



――………
本日は友人のレポート提出に付き合って、昼も過ぎた頃に学校に顔を出した。三年生は気楽な自由登校の時期だ。久しぶりの学校で少しだけ珍しい出来事。龍麻はそっと胸に仕舞った。
が……。
「モテるなぁ。ひーちゃん」
見たぞ〜とニヤニヤしながらパンを食べる相棒に龍麻は額を押さえた。
(……見られていたのか…?)
遠野並に厄介な親友。
龍麻は表情を取り繕うように苦笑いをした。
「…嬉しいけどね?受け止めるには俺じゃ無理」
飲み終わったジュースのパックを潰してビニール袋に入れゴミを纏めると、屋上に寝転んだ。太るぞ〜とからかう声に欠伸で返した。

「あ〜でも勿体ねぇな。さっきの娘。なぁ、ひーちゃん、好きな女でもいるのか?」
思い返すように口の端を上げた京一が視界にちらついた。
(……好きな人…ねぇ?)
京一は他者の恋愛も楽しむ節がある。普段なら流してしまう話だが少しだけ考えてみる。
(……………)
恋愛ではないけれど、これも有りだろうとこっそり笑った。
「いるよ?とっても愛しい…」
「ぶっ…!はっ…ごほっ」
言い終わる前に、京一は豪快にお茶を噴き出した。苦しそうに噎せる姿に大袈裟だなぁと笑いながら龍麻は体を起こした。
「汚いなぁ、吐くなよ。ほら」
「おぅ…サンキュ…」
京一はハンカチを受け取ると零したお茶を拭いた。
「っ…てか、初めて聞いたぞ!」
バッと顔と声を上げた京一に不意をつかれ、目を丸くした。
「何が?」
「だから、好きな女ッ」
焦れたような声に龍麻は思い出したようにカラカラ笑った。
「あはは、女の子じゃないよ?と云うか人じゃない」
京一はぽかんと口を開けた。
「は……?」
間の抜けた顔に笑いかけると穏やかに説明を始めた。
「黄龍だよ。つまり…大地…かな?…愛されているのが、よく分かったからね」
戦いの果てに感じた柔らかな光は深く人を愛してくれた。きっと、一生掛かっても無理だと思うけれど、大地がくれた想いを返していきたい。
「本当に…いや…いい。理解できないのはいつもの事だ…」
真面目に聞いた自分が馬鹿だったと京一は頭を押さえた。


「ひーちゃんは色んな奴らに愛されてんだぞ。覚えとけよ」
京一は龍麻の頭を小突くと忘れるなと釘をさした。
「……うん。ありがとな」
自然に笑える。
京一は照れ隠しみたいに背中を向けて髪を掻いた。
「さて…帰るか、ひーちゃん」


龍麻は口許を緩めると遠くを見詰めた。屋上のフェンスから見える世界は代わり映えしない世界だが、ひどく愛しくて…。
「とりあえず色々考えてみようと思ってる。やれることやってね」

友情に愛情に仲間達に
全ての出会いに感謝して
…無償の愛を捧げよう…?


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