雨よ止まないで

太陽輝く真夏の日。
数日続く日照りに、人も獣も体力を削がれていた。

鬼哭村の木の上で、劉はだれていた。木の葉が作り出す日陰に感謝しながら。

「暑い…」

客家の村もなかなか暑いが、日本のものとは違う。
慣れない気候で、動く元気がないのは小さな相棒も同じようだ。

夕方になれば、この暑さも少しは落ち着くだろう。
そう考え、無理矢理に瞼を閉じた。





目を開けて辺りを見回せば、どうやら夕方近いようだ。余程深く眠ってたんだな俺、と劉が思ったその時、

「…ん?」

ぽつんと、顔に雫が落ちる。
夕立か。瞬時に判断し、劉は駆け出した。

とある家の屋根下に急いで飛び込む。全速力で走ったおかげか、大して濡れずに済んだ。ほっと胸を撫で下ろすと、雨が強さを増す。



「ぬぁぁあああ!」

相棒と戯れているとき突然聞こえた声。驚いて声の方を振り向くと同時に、一人の少年が屋根下に飛び込んできた。

「ぜぇ…お、劉じゃねぇか」
「風祭…」

びしょ濡れになっている所を見ると、余程遠くから来たのだろうか。ふい、と空に目を移しながら劉は問う。

「なんで、わざわざここの屋根下に来たんだ?他にもあるだろ、避難場所」
「うっせぇ、別にいいだろ」

それもそうだな。と思い、雨が止むのはいつ頃かと考える。
さぁさぁと、夕立は降り注ぎ、草木に当たって音を立てる。
その音に耳を澄まし、目を閉じる。

「何してんだ?」
「…雨音を聞いてるんだ」

ふぅん、と興味なさげに声を出した風祭は、濡れた服を引っ張った。


雨音を聞いているのは確かなのだが、それ以外にも空を見続ける理由がある。
人には決して言えぬ理由が。

少しずつ、少しずつ、雨は勢いを失っている。もうしばらくで止んでしまうだろう。

(止むな)

閉じていた目を開き、空を睨む。ただ一心に劉は思った。

(まだ、止まないでくれ)

(こいつを、隣にいさせて)

空に手をかざし、雨に触れる。冷たい雨は、熱い掌を冷やす。

「…止むな」
「ん?なんだって?」

劉ははっとして、手を戻す。顔が熱いのを、はっきりと感じた。

「なんでもない…!」
「いや、でもよ」
「なんでもない!」

風祭に背を向けてしゃがみ込む。馬鹿な事をやった、と劉は自分の迂闊さを嘆いた。
悟られてはいけない感情。

(好きだなんて、言ったら駄目なんだ)

今はただ、雨が長く降るよう、劉は祈り続けた。
風祭が、長くそばにいてくれる事を。

(雨よ、止まないでくれ)










(気付けよ劉)

(俺はお前がいたから)

(ここに走って来たんだ)
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