気高く純粋なひと
転校生・葉佩九龍。彼は今までの転校生とはひと味もふた味も違う存在であった。
自ら天香学園に渦巻く不思議に飛び込み、あげく毎夜のように《墓》へと潜り込んでいる。
何でもその正体は《宝探し屋》だという。宝を求め、この学園の《墓》もとい遺跡の謎に挑んでいるらしい。
そんな転校生に、ナマエは興味を持った。
ナマエは立場的には生徒会――《墓》を荒らすものを罰する側の人間である。
だが誰もそのことを知らない。元から生徒たちは誰が生徒会の人間かは判らないが、その生徒会の人間も、ナマエが生徒会に属することを知らないのだ。
留年し、喧嘩や酒が大好きで、もちろん授業もサボタージュすることが多いナマエが、まさかそんな立場だとは誰も思わなかった。何故ナマエが退学処分を食らわないのか不思議だった。
そしてナマエ自身、生徒会である自覚が薄かった。《墓》に思い出を捧げはしたが、彼はどうしたことか《墓》に縛られなかった。《墓》に触れる前から、ナマエは《力》を持っていたと言う話もある。
そのせいかどうかは知らなかったが、ナマエは《墓》に縛られず、その場所の謎が解き明かされることを待ち望んでいた。
そこに現れた転校生の存在は、彼にとって光明だった。
ナマエはすぐに彼に接触した。
「なあ、葉佩九龍クンだよな?」
「ああ、そうだよ。初めまして!」
「おう。俺はミョウジナマエ。ナマエで良いから。ヨロシクな」
ナマエの噂は耳にしているはずだが、九龍は怖じけたふうもなく笑う。
伊達に墓に潜っているわけではなさそうだ。
寧ろ友好的な九龍の姿に、ナマエも好感を持った。
「大きい声じゃ言えねーけどさ、話は聞いてるぜ。墓のこととかさ」
「えっ!」
「大丈夫大丈夫。俺は君の行動に大賛成だから」
そう言ってナマエが九龍の肩を叩く。
九龍はホッとしたように胸を撫で下ろしていた。
ナマエはまじまじと九龍を見つめた。
ナマエより背丈はないものの、学生服越しにも鍛えられた体であることが判る。この体の中に、あの遺跡を探索するだけの実力や技術が備わっているのか。生徒会を倒して探索のバディに加えているとも聞いているし、納得と言えば納得だ。
後は学校じゅうの余り物を頂戴して武器にしたり、新たな道具を作り出すとも聞いた。
(うーん、《宝探し屋》ってのは錬金術師かなにかなのか?)
他愛ない会話をしながら、ナマエは考えた。
こうして接してみると、葉佩九龍という人間はえらく真っ直ぐな人間であることが判った。
屈託ない瞳に曇りは一切なく、自分の仕事への誇りと情熱に満ちていた。遺跡の化け物や生徒会員と戦っている人間の割にはとても普通の好青年だ。人当たりがよく、言葉に裏表があるようにも感じられない。
もっと厳つくて取っ付きにくいような人物と想像していたナマエは、正直面食らった。
だが九龍と言葉を交わすうち、その戸惑いは薄れていった。
九龍がこういう人間だからこそ、生徒会の人間ですら、彼に力を貸してしまうのだろう。
人を惹き付ける何かが、彼にはあった。
そして彼を信頼した生徒会の人間たちが、以前よりずっと楽しそうに日々を過ごしていることを思うと、ナマエは嬉しくなった。
葉佩九龍は只者ではない。
「何か気に入ったわ、九龍くんのこと」
「俺もナマエと話すの楽しいよ」
「そりゃー良かった!」
どちらからともなく二人は手を差し出し、熱く固く握りあった。
ナマエは嬉々として九龍に連絡先を伝え、力を貸すことを約束した。
「いつでも呼んでくれよ、九龍くん」
「判った、有り難う!」
いつの間にかナマエも、すっかり九龍に心を許してしまっていた。
話を終え、九龍と別れたナマエの心は晴れやかであった。
「ありゃーみんな仲間になっちゃうわ、すごいわ」
飾らない人柄と、純粋な瞳。
揺るぎない誇りによる気高さ。
溢れんばかりに満ちたエネルギー。
本人も無自覚であろう魅力の数々。
彼ならばきっと、全てを解き明かし、学園に光をもたらしてくれるはずだ。
そして彼のために自分も《力》の限り支援しよう――。
ナマエはそう誓うと同時に、気高く純粋な宝探し屋へ幸あらんことを祈った……。