リクエスト作品 | ナノ






「エース隊長ー!」
「エース隊長ー!!」

甲板に響く大声。周囲のクルーは「またか」と溜め息を吐いた。

「まぁたエース隊長がサボってんのかー」
「よくやるよな、エース隊長も二番隊の奴等も」

探し人は何処にも見当たらず、隊員達は慌てるばかり。誰もかれも考えるのは、書類がぞんざいに積み上げられた机。そしてそれを見て背に般若を背負う副船長の姿。想像するだけで冷や汗が出る。

早くエースを見付けねば、その一心で…いや、副船長に怒られたくないという思いが心を占めていた。海に投げられるだけならまだしも(エースに関しては命にかかわる問題だろうが)、甲板に吊し上げられ、更には夕食抜き、廊下をすれ違うたびに睨まれる、そして気を抜けば足払いをかけられ「鍛錬が足りない」と言われ、特攻隊の特別鍛錬(武器使用可、及び特攻隊隊長の銃弾が飛んでくる可能性有りの命が懸かったものである。恐ろしい)に付き合わされる。

悪いのは期限内に書類を終わらせないエースである。それは書類をまとめる副船長であり特攻隊隊長であるナマエも分かっている。しかし、血の繋がっている弟に対し甘くも厳しいのがナマエである。

「反省したか?なら更に深く反省して常に行動を改めるようにしろ」というのがナマエの持論である。右頬を殴ったら左頬も全力で殴れ、である。キリストも真っ青である。

「ナマエ隊長!エース隊長がどこに行ったのか知りませんか?」
「姉さん!」

隊員達は悲痛な声でナマエに呼びかける。甲板の端で刀の手入れをしていたナマエが顔を顰めた。

「食堂は探したか?」
「最初に探しました!いませんでした!」
「自室は?」
「書類はありましたがエース隊長はいませんでした!」
「風呂は?」
「サッチ隊長が入ってました!」
「オヤジの部屋は?」
「「………オヤジィーーー!」」

全力で引き返した隊員達。いない可能性がないわけではない。しかし、ナマエの言うことは不思議と当たる。血が繋がっているからだろうか、エースの居場所はナマエに聞けば分かるというのは白ひげ海賊団の七不思議の一つである。

「見付けましたよエース隊長!」
「ぎゃああああ!お前等どうしてここが分かったんだ!?」
「姉さんに聞きました!早く書類やってください、エース隊長!」
「いやだあああああああああああ!!」
「グララララ!だから言っただろう!」

ナマエの元に隊員達が呼びかけてから数分後、エースの叫び声と船長の笑い声が船の中で響いた。

「全く……しょうがない奴だ」




≡≡≡≡≡≡




「エース隊長ー!」
「エース隊長ー!!…あっ!ナマエ隊長!」
「……今度はどうした」

どこかで見た光景である。ナマエは顔を顰めた。

「また書類が終わってないのか?」
「い、いえ、書類は終わってるんですが…」
「ただ、今日の予定について何も報告がなくて…」
「……分かった。今日、二番隊は四番隊と一緒に鍛錬と掃除をしろ。エースには俺から言っといてやる」
「は、はい!」
「ありがとうございます!」

隊員達は頭を下げて早足で去っていく。ナマエはそれを見送り、持っていた書類を置いてから立ち上がった。

扉へ向ける足に、迷いはない。




≡≡≡≡≡≡




「エース」
「……ナマエ」
「最近は隠れん坊が趣味なのか?」
「………」

むすりと口を尖らせたエース。隠れん坊の鬼に見つかったのが悔しくて、というわけではないだろう。やれやれと溜め息を吐いた。

「…今日だけだぞ」

書類を溜めているわけではない。二番隊には自分が指示を出した。まぁ、今日のところは許してやろう。

自分と同じく癖の強いエースの髪を撫でる。何をそんなに怒っているのか…いや、拗ねている?

「俺、書類頑張ったんだぜ」
「あぁ」
「ちゃんと期限内に出した」
「そうだな、隊員達が頑張ったお蔭だ」
「………」

ますます口を尖らせ、不貞腐れた表情になる。

「褒めてほしいのか?」
「……俺、頑張っただろ」
「…そうだなァ」

どっちかというと、エースを探した隊員の方が頑張ったんだがな。その一言はもう飲み込むしかない。苦く笑い、その頭を力いっぱい撫でてやる。

「よしよし、お前はよくやったよ」
「……もっと」
「頑張ったなエース、偉いぞ」
「…もっと」
「いつもこれぐらい頑張ってくれればいいんだが」
「ナマエ!」
「調子に乗るな」
「ちぇっ!」

また不貞腐れた顔に戻った。




≡≡≡≡≡≡




食堂に一人のクルーが入ってきた。誰かを探しているのか、視線が左右に彷徨っている。しかし、お目当ての人物がいないと分かると首を傾げた。

「あれ?ナマエ隊長は?」
「さっき部屋にいただろ?」
「いや、行ってみたんだけどいなかったぜ」
「食堂は……ってここか」
「いねーな」
「じゃあ甲板探してみるか」
「残念。甲板にもナマエはいねェよ」
「サッチ隊長!」
「あとマルコ隊長も!」
「俺はついでかよい?」
「ち、ちが……っ!ぎゃああああああ!」

隣でヘッドロックをかけられる仲間を見て青褪める。そんなクルーを気にせず、サッチは普通に話しかけた。

「んで?何でナマエ探してんの?急ぎ?」
「あ、いえ。ただちょっと個人的に聞きたいことがあっただけなんで…」
「だったら後にしとけよい」
「はぁ」

何故?と疑問を抱きつつも曖昧に頷くクルー。

「多分昼過ぎまで無理だろうからなぁ」
「…はぁ」

何が無理なのだろう。更に疑問が浮かぶ。それでも曖昧に頷くしかない。

何だか、二人の顔がとても優しげだったから。





探し探され見付けられ

温かい日差しの下。
船尾の隅で姉弟が、互いの肩を貸し合って昼寝をしている姿があった。


(いい写真撮れたぜー)
(後で俺にも寄越せよい)
((隊長達、何の話してんだろう…))



→(後書き)


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