リクエスト作品 | ナノ






「…たしぎ」
「ナマエさん…」

偶然停泊していた島で再び出会った海賊と海軍。基、キイチとたしぎ。両者共睨みあうようにして顔を合わせている。周囲には緊張感が漂うが、下手に関わりたくないというようにと住人達はそそくさと足を進める。海賊と海軍が顔を合わせるとなると、良くてその場で戦闘。悪くて戦艦を引き連れた海軍との小規模の戦争である。誰もがはらはらとしながらナマエとたしぎの次の行動を横目で窺っていた。

「…俺の言いたいことは分かるだろうな、たしぎ」
「…えぇ、何となくですが」
「そうか……じゃあ、遠慮なく…!」
「……!!」

刀に手をかけたナマエに、周囲の声がざわつく。たしぎも刀を構える体制を取り、その場を殺伐とした空気が満たした。




≡≡≡≡≡≡




「いや、本当に助かった」
「いえいえ、こちらこそ有り難いです」

先程の空気は何だったのかと思うほど現在のナマエとたしぎの空気はほがらかとしている。二人はさっきまで居た場所から少ししか離れていないカフェへと移動していた。

「ここのアップルパイが評判でな…!気になって気になって、オヤジに停泊日数を一日延ばしてもらったんだ」
「ふふ、変わってませんね」

刀から芽生えた友情であったが、関係を知らない者からすれば海賊と海軍。いがみ合って当然なのである。言ってしまえば、先程のはそのための茶番であった。今、ナマエは眼帯を外して髪型を変え、たしぎは海軍のコートを脱いだ状態となっている。

二人が眺めるメニュー表には『カップル様限定!ケーキセットを注文すればアップルパイ一ホールをプレゼント!』とある。…この場合、ナマエは何役として来店したのかは察してほしい。

「ケーキも美味しいですね。ナマエさんの苺タルトも美味しそうですが」
「たしぎのガトーショコラも美味そうだな。…ただ、その生クリームが山盛りなのはちょっと」
「あ、生クリーム嫌いでしたっけ?」
「いや、適量であればいいんだ。あんまり大量に盛られると…吐き気がする」
「いますねぇ、そういう人。甘いのが駄目なんですかね?」
「それもあるが…生クリームってあまり冷たくならないだろ?アイスクリームを想像しながら食べた時に裏切られた気持ちになってな」
「あぁ……」

げんなりとした表情を浮かべるナマエに苦笑いを返すたしぎ。二人がケーキを食べ終わった時、タイミングよくウェイトレスが現れた。

「こっ、紅茶のおかわりはいかがですか?」
「頼む」
「お願いします!」
「は、はい!」

いかにも初々しいウェイトレスにナマエもたしぎも優しい目つきになる。恐らく、新人のウェイトレスなのだろう。手が震えてカップがかちゃりと音を立てる度に新人ウェイトレスは肩を跳ねさせるため、影から見守っていた先輩のウェイトレスはトレイを片手にそわそわと落ち着きがない。今にも手助けをしてあげたいという気持ちが滲み出ている。(そしてその立場を変わってほしいとも思っていた。美男美女カップルをあんな至近距離で見れるなんて…!羨ましい!)

その時、

―ぱしゃんっ
「…あっ!」
「……」

緊張による手の震えからか、紅茶を注ぎ終わったたしぎのカップを置こうとした時にナマエのカップにそれがぶつかってしまったのだ。当然のように倒れてしまったナマエのカップは、熱々の中身を溢れさせながらナマエの膝へと落ちてしまった。新人ウェイトレスの顔は蒼白。先輩ウェイトレスは影ながら叫び声を上げていた。

「すすす、すみません!急いで冷やさないと…!!」
「…いや、俺は大丈夫だ。それよりもお前」
「はっはい!……ひゃっ!?」

ナマエに視線を向けられ、文句を言われるとぎゅっと目を瞑った新人ウェイトレス。見た目麗しい男性(?)ではあるが、男というものはすぐに怒鳴り散らすというイメージがあった彼女は既に半泣き状態であった。しかし、次の瞬間やってきたのは怒鳴り声ではなく、手を包む温かい感触。驚いて目を開ければナマエが自分の手を優しく包んでいた!

「今ティーポットから紅茶を零しただろう。ほら、指先が赤くなってる」
「え、あ、ぅ…!!」
「エプロンにも散ってるな、ブラウンだから目立ちにくいとは思うがなるべく早めに洗っておいた方がいい。あと…たしぎ、氷」
「あっ、は、はいどうぞ!」
「ん」

たしぎから受け取った元々お冷が入っていた氷のみのコップ。ポケットから出したハンカチでそれを包み、そっと新人ウェイトレスの指先に当ててやる。そんなナマエの行動に新人ウェイトレスはどうしていいか分からず、顔を赤らめては言葉にならない声を小さく上げるだけ。(先輩ウェイトレスは「なにあれイッケメエエエン!」と叫んで後ろに倒れた。)

「…熱でもあるのか?だったら病院まで送ってやるが」
「ぇ!あっ、ち、ちが…っ!!」
「…ナマエさんって、タラシですよね」








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