リクエスト作品 | ナノ






深夜のモビーディック号。その隣には敵船が停まっている。しかし、見た目では分かりにくいが敵船の甲板はびしょ濡れになっており、確実に戦闘後であることが窺える。

「もー!副船長が全部潰すから俺らの出番なかったじゃないっすか!」

声を上げたのは特攻隊隊員のロイカ。手には自分の得物を持っているにも関わらず、それは全く汚れていない。対する特攻隊隊長のナマエは頬に返り血が付いており、ゼキから渡された白いハンカチで血を拭っている。

「悪かったって。今回は大勢で暴れたらアレが割れると思ってな」
「アレ?」
「アレ」

敵船から帰ってきたナマエがにやりと笑いロイカにある物を指した。それは様々な形の瓶に入っていたり、樽に入っていたりするアルコールが含まれる液体。

「酒!」
「酒好きな海賊団だったんだろうな。結構な数の酒があった」
「今夜は宴っすね!」
「や、まだ皆寝てるんじゃ…」
「「「酒ー!!」」」
「お前等………」

さっきまで静かだったくせに、と溢すナマエだが盛り上がっているクルー達には届かない。意気揚々と敵船から酒を持ち出し始めるクルー達を横目に溜め息を溢す。

「…深夜二時過ぎてるってのに……はぁ」

そう言っても喜ぶ仲間を怒れないのか、ナマエは苦笑いを浮かべながらそれについていった。オヤジも起きるんだろうな…と思うと、健康に悪いから止めてほしいと心の底から心配になるナマエだった。




≡≡≡≡≡≡




「飲んでるか野郎共ー!」
「「「うおおおおお!」」」
「姉さんは大好きか野郎共ー!」
「「「うおおおおおおおお!」」」
「うるっせェ!!姉さんが一番大好きなのは俺だ馬鹿野郎共!!」
「お前が一番うるせぇよセツ」
「姉さん!!」

大好きですー!とか何とか叫びながら抱き着いてくるセツを軽くいなし、隊長達が陣取ってる机へと向かう。後ろから姉さんコールなんて聞こえない。そう、野太い声の姉さんコールなんて聞こえない。そしてこんな展開は何度か見たことがあるとかそんなの知らない。

「おー、流石姉さん。人気者だねぇ」
「…馬鹿にしてんのか、イゾウ」
「いんや?……どっちかっつーと、妬ける」
「囁くな!」
「ナマエ!エロイゾウの近くになんて俺の隣に座れ!」
「そうだ!むしろ俺の隣に座れナマエ!」
「エースとサッチの隣は煩そうだから嫌だ」
「誰がエロイゾウだって?」

鳥肌が収まりつつある肌を擦り、机にある酒瓶を一つ手に取った。勿論座るのは一番安全そうだったマルコとジョズの間。二人は俺が向かう前から間を空けて待っていてくれていた。(その間、エースとサッチはイゾウによって的にされていた。)

「悪いな、二人とも」
「いや…お疲れ、ナマエ」
「あぁ。ありがとな、ジョズ」
「つまみはいるかい?」
「ん、いる」

マルコが差し出してきたカルパッチョを少しだけつまんで酒を煽る。あぁ、これは結構アルコール度数が低いな。飲みやすいけど。

そんなことを思いながら酒をぐびぐびと飲めば、あっという間に無くなってしまう。次はどれにしようかと机へ視線を向けると、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。

「姉さん姉さん!」
「ん?…おいセツ、酒瓶抱えたまま走ってくるんじゃねぇ。転んだらどうするんだ」
「だいじょぶっす!」

ふらふらしてるくせに何言ってんだ。既に酔っ払っている部下にまた溜め息が出る。あんまり酒に強くもないくせに酒好きだからな、セツは。下手したら宴開始五分以内にぶっ倒れてる時もある。倒れなくても暫く絡み酒した後にいきなり吐いたりするものだから、正直酒が入ってる時のセツには近付きたくない。

「はい、これ!姉さんにあげます!」
「何だ?妙にごてごてした装飾の瓶だが…」
「船長室にあったやつです!なんか高そうだったんで姉さんに献上するのがいいかと思って!」
「分かった分かった。分かったから大声で叫ぶな」

叫ぶたびにゆらりゆらりと揺れるセツ。見てるこっちが心配になるその光景に、もう部屋に戻れと言うと「嫌ですー!」と更にぎゃんぎゃん叫ぶ。…ぶっ倒れるぞ。もしくは吐くぞ。

「俺も姉さんと飲むんですー!」
「また今度飲んでやるから」
「今がいいんですー!」
「……セツ」
「姉さんー!!」

叫んではゆらり、叫んではふらり。今にも閉じそうな瞼に、弱い力で俺の服を掴む手。俺はもう一度溜め息を吐いてセツに向かい合った。酒を飲んだせいで火照った頬に手を添え、しっかりとこちらを向かせる。

「酒、ありがとな。セツの働きのおかげで美味い酒が飲めそうだ」

だから今日はもう休んでいいぞ。そう言ってバンダナをしてる頭を優しく撫でた。ら、

「…俺……一生、姉さんについていきますー……!!」

と言って倒れた。おい、やっぱり倒れるのかよ。部屋まで連れて行くのは面倒なため、コートを脱いで適当にかけてやる。セツの顔が弛んだのは、酒瓶に興味を移した俺からは見えなかった。

「…セツのシスコンは一生治らねェな」
「もうこの船に乗ってる奴ら全員治らねェよ」
「あは、言えてる」

その後、俺にも構ってー!と突撃してきたエースに反射的に肘打ちを食らわせてしまった俺は悪くないと思う。ちなみに、サッチはリーゼントにどでかい風穴が出来てしまったことにより暫く立ち直れなかったようだった。

「むひゅひゅー…ねーさんは、今日もうるわすぃですねぇー…うふふ…」
「…セツ……きもい」

涎を垂らして緩めるだけ顔を緩ませるセツを、腐りかけの腐乱臭漂わせる生ごみでも見るかのような目で見るゼキ。今にもごみ袋に詰めて捨てそうな勢いである。とあるクルーがそんなゼキの肩を叩いて悪魔の一言。

「ゼキ、悪いがこいつを部屋に運んでやってくれ。ここで寝てても踏んじまうだろうから」

ゼキの顔が一気に陰る。振り向き様に声を掛けてきたクルーに肘打ちを食らわせた。あれ、さっきこの光景を見たような…と汗を一筋流した他のクルー。ゼキが着々とナマエに似てきている気がするのは決して気のせいではない。








× 

戻る



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -