リクエスト作品 | ナノ






「はぁー…」

吐いた息が白くなったのは空気が冷たいから。何故空気が冷たいのかというとここが冬島だから。そして何故俺が溜め息を吐いたのかというと、この目の前にいる人物のせい。

「…39度。立派な風邪だな」
「………別にだいじょ「うぶじゃないから。まだ寝てろ」…」

意地を張って起き上がろうとするマルコの額に濡れたタオルをぴしゃりと叩きつける。マルコは何か言いたげな顔をしていたが大人しくベッドに戻った。

言うのを忘れてたが、俺がいるのはマルコの部屋。船内にもかかわらず白い息が出るということは物凄く寒いということを表している。よって、いつもの薄着をしていたマルコは見事に風邪を引いた。(エースは無事だったが…、まぁあいつは炎人間だしな。)

「今日冬島に着くからちゃんと暖かい格好しとけって言っただろ。何でいつもと同じ格好なんだ」
「……よい」
「よい、じゃない」

濡れタオルが乗ってる額をぺちっと叩けば、母親に怒られた子供のような顔をするマルコ。溜め息を吐きながらそれを見て、飯でも貰いに行こうかと身を翻したら何かに引っ張られるような感覚がした。振り返ってみたらマルコが俺の服の裾を掴んでいた。

「…マルコ?」
「!」

どうした?と聞いてみたら何でもないと言われたが、マルコの手は未だに俺の服の裾を掴んでいて、視線はふよふよと宙を彷徨っていた。……物凄く何か言いたそうだ。

「どうした?」
「あ…いや、その……」
「ん?」
「…こ、ここに居てくれないかい…?」

いや、ナマエが良ければでいいんだが…と、口の中でもごもご言っているマルコ。そういえば、風邪の時は人肌が恋しくなるとか何とかナースの奴らが言っていたような気がする。(エースやルフィは風邪を引いたことが無いので知らなかった。)

「けど、薬を飲むなら何か腹に入れないと…」
「……寝てれば「治らないから」………」

む、と赤い顔で口をへの字に曲げられる。だが何も反論してこないところを見ると結構参っているらしい。そんなマルコを見て再び溜め息を吐く。

「船医が言うには、体を冷やしたせいだけじゃなくて疲労とかも原因らしいぞ」

昨日島に着く前、珍しく敵襲やら海軍やらが重なって、マルコはその後の宴に参加せずに書類を夜明けまでやっていた。それが予想以上に体に負担をかけていたらしい。もちろんその後に体を冷やしてしまったのだ第一の原因だろうけど。

「げほ…っ」
「あー…咳まで出てきたな」

咳だけでなく心なしか顔も赤くなってきた気がする。マルコの額に乗せていた濡れタオルを一度取り上げ、近くのチェストの上に乗せていた氷水が入っている桶の中に入れる。そして水を適当に絞ってからまたマルコの額に乗せた。

「…悪いな……、…ごほっ…」
「気にすんな。それに弟は姉に頼るもんだろ?」

すまなそうに謝るマルコを茶化すように笑い、汗で張り付いている髪を退かしてやり、そのまま頭を撫でてやる。いつもとは違って弱々しいマルコの姿を見ていると本当に弟のようだ。(まぁマルコの方が年上だが。)

「それより何か欲しいものあるか?飯とか水とか、喉が痛いんだったら蜂蜜檸檬とか作ってくるが…」
「………が…、…」
「ん?」

頭を撫でてやっているうちにいつの間にやら船を漕ぎ出していたマルコ。徐々に小さくなっていく言葉に耳を澄ませる。

「ナマエ…が………」
「俺?」
「……ナマエが、ここに…いてくれたら、それで…………」
「「ナマエー!!/姉さーん!!」」
「「……」」
「よっ。マルコ、ナマエ」

マルコの声を遮って現れたのは言わずもがなエースとセツ。その後ろにいたのは小さな土鍋を持ったサッチ。おい最初の二人組み、サッチを見習え。病人の前で騒ぐな。ドアを壊す勢いで開けるな。死ね。

「最後の何かおかしくね!?」
「何か言ったか?」
「何でもないです!!」
「ちっ…で、何しに来た?」
「(舌打ち…)や、男の勘というかなんというか…」
「第六感というかが……なぁ?」
「よし沈める」
「「ぎゃあああああ!!」」
「まーまー、落ち着けってナマエ」
「なん…………サッチ、それは?」
「粥。風邪っ引きマルコ君に差し入れだ」

ほら!と土鍋の蓋を開けてほこほこと湯気を立てる粥を見せるサッチ。確かにまだ薬を飲ませてなかったから丁度良かったかもしれない。

「悪いな。そしてエースとセツはさっさと出て行け」
「酷くね!?」
「サッチ隊長は良いんですか!?」
「サッチは言わなくてもちゃんと出て行くからな。お前らは言わないと出て行くどころか騒ぐだろ」
「「…………」」
「図星か」

まだ何かぎゃんぎゃんと言い出したエースとセツを部屋から追い出し、サッチも出て行ったところでマルコのベッドを振り返る。さっきの騒ぎで目が覚めてしまったのか、目を開いてぼんやりとしている様子のマルコ。サッチから渡された土鍋を持ってベッドに近付く。

「マルコ、粥食えるか?」
「…ん……、」

聞いたら赤い顔のまま僅かに頷く。起き上がろうとするマルコを手伝い、額に乗せていたタオルを桶の中に入れておいた。土鍋の粥を蓮華で掬い、息を吹き掛けてある程度冷ましてからマルコの口元に近付ける。

「ん、口開けろ」
「…んあ」

小さく開いた口の中に粥を流し込んでやる。大人しくされるがままにもぐもぐと口を動かす様は何だか雛鳥みたいだ。…あれか、雛鳥に餌を与える親鳥ってこんな気持ちなのか。(マルコって不死鳥だし。)

「ほら、あーん」
「ん、」

俺が蓮華を差し出すと口を開けて待つマルコ。…なんか可愛いな、とか思ってしまった自分を少し殴りたくなった。

「畜生、マルコめ…なんて羨ましい…!!」
「…俺も風邪引いてこようかな…」
「エース、セツ。そろそろドアから離れた方がいいと思うぞー」
―ドスッ!!(ドアに刀が突き刺さった)
「「ぎゃあああ!?」」
「…やっぱりな」

「?」
「気にしなくていいぞ。ちょっと虫がいただけだから」





甘いようで甘くならない空気
(原因はあの二人だろうけどな)

(…ん、熱下がったな)
(よい)
(マルコてめぇ覚悟しやがぶへっ!!)
(喧しいぞエース。マルコは病み上がりだから静かにしろ)
(姉さーん!俺も風邪引いたんで俺にもあーんしてくだゲホォッ!)
(風邪引いたなら安静にしてろよ、セツ)






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