そして三十分後。赤髪海賊団の元に新たに現れたのは、セツが求めていた人物。
「おいおい…セツが帰ってこねェと思ったらこんなことになってたのかい」
「お、マルコじゃないか!お前も飲んでいくか?」
「飲まねぇよい。さっさとそこの酔っ払いと阿呆を連れて帰る」
顔を真っ赤にしてふらふらと前後左右に揺れるセツ。料理を作って満足した後、自分も酒を飲み料理を食べて騒いでいるサッチ。それらを見て、マルコは心底呆れたと言わんばかりに溜め息を吐いた。ベンが苦笑いで答える。
「セツは勘弁してやってくれ。お頭が無理矢理飲ませたんだ」
へらへらと高笑いでもし始めそうなセツだが、最初はきちんと拒絶していた。そう伝えれば、マルコも強く出られなかった。ふざけてマルコに抱き着きそうなセツの額に強力なデコぴんを食らわせる。
「あだぁッ!!」
「お前はそれで勘弁してやるよい。……サッチィ!!」
「あー?マルコも飲みたいのか?」
「酒ならモビーに帰ってから飲むよい。お前はうちの奴らを餓死させたいのかい?えぇ?」
「だぁいじょうぶだって!料理できる奴が残ってるんだし」
「そういう問題じゃねぇだろい…」
セツ以上にへらへらと笑っているサッチに、マルコも呆れて物も言えなくなる。これ以上口論を交わしても意味がないと悟り、セツとサッチの首根っこを掴んで縁へと歩いていく。
「こいつらが世話になったない」
「おー、いつでも来いよ。お前らなら歓迎するぜ」
「面倒になると分かってて誰が来るか」
「はっはっは!冷てぇな」
「マルコー!」
楽しそうに笑うシャンクスの声に紛れ、マルコを呼ぶ声が聞こえた。声のした方…縁から下を覗けば、エースが手を振っているのが見えた。
「お?エースも付き添いか?」
「サッチとセツ運ぶんなら、一人じゃ大変だろうってオヤジに言われてな!」
「じゃあセツを頼んだよい」
「ん!」
シャンクスの言葉に笑って返したエース。何が楽しいのか口元が緩みっぱなしのセツを背中に乗せ、そのまま船を降りようとする。そこで、シャンクスが思い出したように口を開いた。
「あ、そうだエース」
「酒なら飲まねーぞ?」
「あー…、まぁそれはいいんだけどよ。……うーん、本人に黙って言ってもいいものかなぁ…でもまぁ、エース達ならあいつの家族だし別に…」
「何なんだい。これ以上引き留めるんじゃねぇよい」
何か迷うように目を泳がせ、持っていた酒瓶を甲板に下ろすシャンクス。もごもごと呟いて一度口を閉ざし、エースやマルコを見てから再び口を開いた。
「……んー。あのさ、エース、マルコ」
「「何だよ(い)」」
「…キ、「お頭ァ!!」…何だよ!今漸く話す決心をしたのに!」
バタン!!と大きな音を立てて船内から出てきたクルーにシャンクスが怒鳴る。だが、クルーの慌てように只事じゃないと悟り、続きを話すように促した。
「お、お嬢が…お嬢が行っちまいました!」
「……ハァ!?どういうことだ!?」
一瞬、理解できないと言うようにぽかんとしていたシャンクスだったが、クルーの発言に目玉が飛び出しそうなほどに驚く。そして、一つしかない腕でクルーの胸倉を掴み、激しく問い詰めた。息苦しそうな顔をするものの、クルーは何とか情報を伝えようと言葉を紡ぐ。
「さ…さっき、新しい新聞が、入りまして…!それを見て、お嬢が窓から飛び出していっちまったんです…!!」
「新聞?」
「こ、これで、す…!!」
奪い取るように新聞を取ったシャンクスに、やっとのことでクルーの器官に空気が吸い込まれる。ゲホゲホというクルーの咳をBGMに、握り締められたのか皺が寄った新聞へ目を滑らせる。マルコもエースも、状況が判断できずにきょとんとしていた。
「……まずい」
「なァ、お嬢って誰だ?赤髪って女のクルーいたっけ?」
「新入りが入ったって言ってたが…そいつのことかい?」
「マルコ、エース。白ひげにこの島へ向かうように言え」
「「はぁ?」」
突然の発言に二人は首を傾げる。シャンクスが指したのは、ここからさして近くもない島だった。名前は、ラボラトリー島。通称、
「『実験室』…?」
新聞の隅に載るような、小さな記事だった。その島では、政府が世に役立つための実験が行われているのだと記されている。加えて、『遂に完成』という一言も添えられていた。しかし、一体それがどうして白ひげ海賊団の進路を変えることに繋がるのか。疑問を口にしようと、マルコが顔を上げた時だった。
「落ち着いて聞けよ」
いつになく、真面目な顔をしたシャンクスがいた。いつの間にか、その傍らにはベンもいる。
「キイチは生きてる」
「は、」
「ついさっきまでこの船にいたんだ」
エースが勢いよく顔を上げた。しかし、シャンクスが鋭く遮る。
「俺達も詳しくは知らないが、この島にはキイチとの深い因縁がある」
「何言って…」
「いいか、キイチは戦争が終わってから俺達が保護して治療した後もこの島について調べていた。お前達も知らないようだが、俺達もこの島については全くと言っていいほど知らない」
「シャン、」
「此処に行きゃあキイチと会うことはできるだろう。だがな…俺達に、ましてやお前達にそれを知らせず一人で行ったってことは、キイチ自身が一人で解決しようとしてるってことだ」
「おい、」
「お前達、キイチの首の包帯の下に何があるか知ってるか?」
唐突な質問。その答えを知らない二人は口を閉ざした。完全に、シャンクスの醸し出す空気に圧されていた。
「此処に行けば全部分かる。だが、」
「それを、キイチの全てを知る覚悟はあるか?」
シャンクスの言葉をベンが引き継いた。マルコもエースもその問いに答えることなく、無言で船を降りていった。その手に新聞を握り締めて。
知らない事実、求める覚悟
(…オヤジに報告が先だ。突っ走るなよい、エース)
(………)
*・*・*・*・*
感動の再会はお預け。
ここから完全にオリジナルな話になります。
∴14/09/16 修羅@
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