暑い。夏島が近いせいか、かなり気温が上がってきた。熱気を含んだ潮風も鬱陶しい。舌打ちをしたくなるのを耐え、刀の手入れを続ける。夏島は嫌いだ。暑いし、汗が出るし、とにかくイライラする。だが、夏島だからこそ良い点もある。
「キイチ、スイカ食わねぇ?さっきエースがたくさん買ってきたんだよ」
「食う」
「おー、食堂で待ってるからな」
「ん、すぐ終わらせる」
…そう、スイカだ。水分をたっぷり含んでいて、甘いのに野菜だからカロリーも高くない。水分不足になりがちな夏にふさわしい果物だ。林檎の次に好きだ。(時々やるスイカ割りは楽しいんだが、力加減を間違えたら潰してしまうのが難点である。)
「…よし、こんなもんか」
磨き終わった刀を持ち替え、太陽光に照らしてみる。きらりと光る刃に満足し、そのまま鞘に仕舞った。最近雨が続いていたから調子が悪かったんだよな。夏島が近くなると雨が増えるのも嫌だ。晴れた後のカラッとした空気は好きだが。
「っと、そんなことよりスイカスイカ」
食堂に行く前に刀を部屋に置いてこなければ。面倒だと思う反面、それが終わればスイカが食べられる。俺は足早に部屋へ向かった。
≡≡≡≡≡≡
サッチ隊長が何やら楽しそうにスイカを切り分けている。鼻歌まで歌っちゃって、何がそんなに楽しいのか。不思議になった俺はサッチ隊長に聞いてみることにした。
「隊長ォ〜、すげー楽しそうですけどそんなにスイカ好きだったんですか?」
「違ェよ。スイカは好きだけどよ、俺が楽しみにしてんのはキイチだよ」
「キイチ隊長?キイチ隊長がスイカ好きなんですか?」
「間違っちゃいねぇけどな……ま、見てりゃわかるさ」
「?」
キイチ隊長がどうしたのか。スイカを食べるキイチ隊長が見ものなんだろうか。キイチ隊長はアップルパイを食べるところが一番可愛らしいと思うが…。そう考えていると、件の人物が現れた。随分と嬉しそうだ。
「サッチ、」
「こっちにあるぜー。おかわりが欲しけりゃ言えよ」
「ありがとな!」
いそいそとスイカが用意された席に座り、両手でそれを持ち上げる。水が滴るスイカは、暑くて喉が渇いているこの気候に嬉しい。俺もキイチ隊長に倣ってスイカを取ろうとした時、
「んぐ、…んぐ」
スイカに齧りつき、口をもにゅもにゅと動かすキイチ隊長が目に入った。……ん?
「…ん…、ぷぺっ」
「………」
「んぐ…、……ぷぺっ」
齧ってはもにゅもにゅ、そして勢いなく種を口から吐き出す。それをエンドレス。
「(こ、これは…!)」
目の前のサッチ隊長に視線をやれば鼻を押さえて無言で悶えていた。隊長、貴方このこと言ってたんですね…。もにゅもにゅ、ぷぺっ。美味しそうにスイカを咀嚼するキイチ隊長のお姿が、今まで感じていた暑さを吹き飛ばした。あれ、もう夏島通り過ぎたっけ…?
サッチ隊長に続き、俺も内心かなり悶えながらスイカを齧る。ああ、甘い。喉が潤う。そりゃあキイチ隊長もあんだけ嬉しそうに齧りつくわけだ。しかし、先程から言っているがスイカはたっぷりと水分を含んでいる。果汁が皮を滴り、それを持っている腕に伝う。
「あ、」
キイチ隊長の腕に滴る雫に気付いたサッチ隊長が、そっと布巾を差し出そうとする。
「、ん」
しかし!キイチ隊長は良い意味でも悪い意味でもスイカに夢中だった!勿体ない、と言わんばかりにキイチ隊長の舌は果汁を追いかける!暑い気候のせいで滲む汗だけでなく、スイカの果汁も滴るキイチ隊長の腕!そしてそれを舐め上げるキイチ隊長の小さな舌!さらに!こういう時に限って(こういう時だからこそだろうが)露出の多いタンクトップに短パン!そのせいで色気の大感謝セール!顎にも伝う汗か果汁か分からない雫!それを!舐め上げたいと思ったのは俺だけではないはずだ!!
「……おいサッチ、お前のとこの隊員が思考トリップしているぞ」
「………放っておいてやれ」
「…サッチ、何で前屈みになってんだ?」
「…………放っておいてくれ」
滴る雫と色気
(んむ、んむ…)
((器用なくせに変な所が不器用だよなぁ…そこが可愛いんだけど))
(サッチ―、俺もスイカ食いたいー)
(おー、エースのはそっちな)
(サンキュ!……んむ、んむ…ぷぺっ)
(………お前等、本当に似た者姉弟だな…!)
*・*・*・*・*
超絶お久しぶりです!姉さんごめんね!
この間友達と姉さんに似合う果物の話をしたもので、ついついこんな話になりました。夏と言えばスイカよね!完璧な姉さんにもちょっくら変な癖というか、面白い癖というかを考えてたらこうなった。
姉さんはちょいちょい食べ方が不思議。そしてそのせいで無意識に周りを悶えさせる。
…え?前回のシリアス?そんなもん家出しました。
∴14/08/11 修羅@
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