「……敵襲…」



見張り台からそっと降りてきたゼキの一言に、夏島が近いであろう蒸し暑い空気がピンと張り詰める。時刻は深夜の三時を回ったところである。辺りは真っ暗闇であるにも関わらず、敵船の甲板には血に飢えた目が爛々と輝いていた。



「白ひげの首をとれー!」


「ぎゃはは!こんな深夜なら奴も寝てるはずだぜ!」


「さっさと乗り込んで見張りもろともやっちまえー!」



深夜の海に響く大声や笑い声。果てには白ひげ海賊団への暴言が聞こえてくる始末。彼らはモビーディック号甲板から立ち込める殺気には気付いていないのか、未だに笑い声が止む様子がない。



「……」



メインマストに寄りかかった影がゆらりと動く。



「…現在、甲板にいる特攻隊全員に告ぐ」



影はその腰に差し込まれた刀を掴み、前方から堂々と現れた敵船を見据えて、白ひげ海賊団の象徴ともいえる白鯨を象った船首へと踏み出した。



「手加減する手間も惜しい」



そして、刀をすらりと抜いた。



「さっさと殲滅しろ」



その表情は暗闇に隠れて見えなかったが、真っ先に甲板へ現れた影を見た敵が立ち上がれないほどに竦みあがった程度には恐ろしいものだったらしい。




≡≡≡≡≡≡




「キイチ、今日も不寝番お疲れさん」


「…ん。サッチ、紅茶を頼む」


「はいよー!あ、新聞そこ置いてるから」


「ん」



カタ、と食堂の椅子を引いて座ったキイチ。新聞を開いては目新しい情報が載っていないか確認する。



「ほい、今日はセイロンのミルクティーな」


「ん、」


「美味い?何か茶菓子用意しようか?」


「んん、」



新聞を読むキイチに声をかけてもおざなりな返事しか返ってこない。しかし、キイチと向き合って座るサッチの目と口は嬉しそうに弧を描く。サッチからしたら、キイチが自分の前に座り、自分の淹れた紅茶を飲んでいる姿を見て、自分の声に反応してくれるだけで幸せなのだろう。



「面白い記事でも載ってた?」



その質問に、キイチはすっと目を動かす。

【闇討ちのイーデリッヒ、再び現る!賞金が五千万ベリーから八千万ベリーへ!】

記事には、暗闇の中で高らかに笑う男が血を浴びている写真が載っている。その眼光は、暗闇の中でもはっきりと分かる程に爛々と輝いていた。その目は、数時間前に見た――…



「…いいや、別に」



海の底に沈んでいるであろう真っ黒に染まった船を思い出し、キイチはひっそりと笑った。







知るは特攻隊のみ


(姉さん!換金済ませてきました!)
(…ん、ご苦労)

(寝ているクルーを起こさず)
(敵を殲滅するのが彼らの仕事)






*・*・*・*・*

久し振りに書いたというのにこの短さよ…。

∴13/12/31 修羅@


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