壱拾萬打企画! | ナノ






ここは新鮮で甘いフルーツが有名な島。ということで、


「アップルパイをホールで」
「かしこまりました。ご自宅までにかかるお時間は…」
「いや、ここで食べる」
「…え、あ、いや、アップルパイをホール…ですよね?」
「あぁ。フォークとナイフは大きめの物で頼む」
「…………は、はい」





赤い悪魔に誑かされて





「………美味い…」
「(あんなに美味しそうにアップルパイをホールで食べる人初めて見た…)」
「(可愛い…でも格好いい…)」
「(写真撮りたい…)」


サッチのアップルパイとはまた違う美味しさ。新鮮な林檎を使ってるだけに食感もいいし、林檎そのものの甘さもちゃんと分かる。しかもパイ生地にも林檎の皮が混ぜられているようで風味がよく、サクサク感もいい。林檎の香りを殺さないシナモンの量も絶妙だ。林檎の良さを最大限に活かしている。


「土産に少し買って帰るか…5ホールくらい。1ホールは俺が食おう、うん」
「(5ホール!?)」
「(ていうかまだ食べるの!?しかもホール!?)」
「(でもイケメンだから許す!)」


もくもくとアップルパイを食べ進める。美味い。顔が緩んでるのが分かるが止められない。美味い。後でゼキと一緒に食べよう。美味い。サッチに淹れてもらった紅茶もあれば最高だな。美味い。そう思いながらまた一口。


「んむ、」
「…お客様、(可愛いこの人可愛い可愛い)」
「…む?」
「(可愛い首傾げてる可愛いフォーク銜えながら首傾げた可愛い)あ、あちらのお客様がこちらを貴方にと」


目の前に差し出されたのはアップルパイ(ホール)。店員が指した方を見ればエリザ並みにスタイルが良い黒髪の女がこちらを見てウインクをした。少しだけときめいた。……いや、俺女だけどな?(あと店員が妙に息が荒い気がするんだがどうしたんだ?)


「(あ、り、が、と、な!)」


と、静かな店の雰囲気を壊さないように口パクだけで伝える。女はにこりと笑って俺に手を振り、あちらも口パクで何かを伝えようとしていた。


「(お、れ、い、は、)」


…お礼?


「貴方の体で、ねvV」


耳元で声が聞えたと思ったら、さっきまで離れた所に座っていたはずの女が背後に立っていた。女が目隠しをするように俺の目を両手で隠した途端、世界がぐるりと一回転したような感覚に襲われた。



≡≡≡≡≡≡



「…キイチが帰ってこない?」
「えぇ、アップルパイを食べたら帰ってくるって言ってたんですが…」


心配そうに眉を寄せる俺の隊の隊員。こいつが俺の部屋へ駆け足でやってきて報告してきた時は正直耳を疑った。あのキイチが連絡も無しに帰ってこないなど有りえない。キイチが出て行ったのは午後三時…おやつの時間である。そして現在は午後十時。いくらなんでも遅すぎる。「アップルパイを食いに行ってくる!」と、へんにゃりした笑顔を浮かべて去っていったキイチの姿が俺の頭を過ぎった。可愛かった……違う、一体どうしたのだろう…。


「店は分かるか?」
「はい。キイチ隊長が地図を作ってたようで」
「(わざわざ地図まで作ったのか…)」


流石アップルパイにかけては情熱が計り知れない男よりも男らしい女。…意味が分からん。


「俺が行ってくる。オヤジに報告よろしくな」
「お願いします!」


隊員が走り去っていったのを見送り、俺は一応自分の得物が懐にあることを確認する。それを一撫でし、キイチを探す為に早足に部屋を出た。








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