壱拾萬打企画! | ナノ






「刀を探してる。できれば中古がいいんだが…」


本日何度目かのこの台詞。そろそろ言い飽きてきた。中古がいいと言った瞬間に店主の目がつまらなさそうに細められた。…悪かったな、新品に手を出す金がなくて。すっと店主が店の隅を指す。おい、せめて何か一言くらい言えよ。態度の悪い店主だな。

舌打ちしたくなる気持ちを抑え、教えられた場所へ行く。そこにはいくつかの古びた刀が無造作に立てかけられていた。一つ手に持ってみるが、酷く埃が積もっておりすぐに掌が真っ白になった。埃くらい払えよ。


「(…この店、大丈夫だろうか)」


一気に不安になってきた。こんな中で相性のいい刀が見つかるのか?しかし、下手にこだわり過ぎたら何も買うことなどできない。こんなに迷うくらいだったら手頃な銃にしておくべきだったか。だが、今更銃に変更するなんて嫌だ。もう俺は刀の気分なんだよ。(どんな気分だ。)

そうやってごちゃごちゃとした思考に呑まれつつも、刀を手に取ってはあった場所へ戻し、手に取っては戻し、と繰り返していた。そしてまた刀を手に取った、その時。


―ぐらり、

「う、ぁ…!?」


地面がいきなり揺れた。地震かと思ったがそうじゃない。バッと目の前に紅いモノが飛び散ったのが見えた。それを目で追えば、見た事のある光景が広がっていた。


「ア゙アアア゙アアアアアアアアアアアアアアアア゙ァア!!」


これは、"あの時"だ。

俺が化け物になって、初めて人殺しをした、あの時。白い服を着たニンゲンの頭と胴体が引き千切られ、未だ鼓動する心の臓を踏み潰され、逃げようともがく足を叩き折られる。絶え間なく続けられる殺戮の瞬間を、何度も何度も目の前で繰り返される。


『随分と、血生臭い主だな』


耳元で声が聞えた。男だ。若い、まだ十代くらいの男の声。その声は嗤う。


『でも』


くつり、くつり。喉の奥で嗤う音が聞こえる。俺はその場から一歩も動くことが出来なかった。いや、動くことすらできなかった。


『"俺"の主なんだ。そのくらいが丁度いい』


首がぐっと締め付けられる鈍い感覚がした。俺はまだ動くことが出来ない。力は段々強くなっていく。息が吸えない。


『せいぜい、死なないようにするんだな…ご主人様?』


声が遠ざかった。首の圧迫感も消えた。俺はようやく動くことが出来た。振り返ってみたり、左右を見回すが何もない。何も、いない。


「……ッ、は…!」


無意識に止めていたらしい呼吸を再開する。首元に手をやれば、包帯が妙に生暖かい。さっきまで何かが触れていたのだと、さっきまで何かが俺の首を絞めていたのだと実感させられる。


「妖刀……阿修羅…」


茎(なかご)と呼ばれる部位に掘られた銘。刀に詳しくない俺には分からないが、相当凄い刀であることが分かる。刃を光に照らせば、これが数多の血を啜ったのだと証明するように薄紅色に輝く。そっと刃に指の腹を滑らせると、驚くほど滑らかに切れた。その傷は直ぐに消えてしまったが、俺がこの刀を見る目だけは逸らされることがなかった。


「主、か」

『せいぜい、死なないようにするんだな…ご主人様?』

「(……死なないさ)」


ぐっと刀を握り心の中で繰り返す。死なない。そう、俺は死なないよ。今は、大事なものが沢山出来た今は死ねないから。

愛想の悪い店主へ向かってニッと笑った。そしてそのまま金を置いて駆け足で店を出た。


「親父、これ貰ってく!」


早く、早くお前を使えるようにならなきゃな。俺が主なんだから。お前の主なんだから。そうだ、妖刀についても沢山調べよう。お前の事も色々知らなきゃだからな!

そうして、俺は新しい相棒が出来たことにはしゃいでいて、後から付いてくる二つの影に気付いたのは船に着いてからだった。





→(おまけ)


 

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