(がくルカ)
主が福引きで当てた、遊園地のペアチケット。
一人で行ってもつまらない、人を誘うのも面倒だから誰かと行ってこいと渡されたそれ。
せっかく貰ったのだから、使わなければもったいない。
ということで、ルカを誘って遊園地に来た。
「遊園地なんて久しぶりです!前にマスターに連れてきてもらって以来だわ」
「私は初めてだ。……人が多いな」
「遊園地ですもの!さ、早く行きましょう!」
そう言って腕を引っ張るルカは常よりも興奮気味で、きらきらと目を輝かせている。
ここまで喜んでくれると連れてきた甲斐があるというものだ。
私自身はあまり興味が無いしそもそも人混みが苦手なんだが、彼女の楽しそうな顔が見れるのなら我慢しよう。
「何に乗りたい?」
「えーと……あ、あれ!」
示された先には、巨大なティーカップ。
中に人が乗り、ぐるぐると回っている。
見ればちらほらカップルと思しき二人組も乗っているし、定番なのかも知れない。
……しかし、目が回りそうだな……。
「がく、行きましょう?」
「ああ」
若干の不安を残しつつも列に並び、数分待つとほどなくして順番が来た。
ティーカップに向かって一直線に走るルカを可愛く思いながら後を追い、カップに入ると。
「見て見て、このカップ紫とピンクなのよ」
「ああ……本当だ」
「この組み合わせひとつしかないみたい。乗れて良かった、私達の色だものね」
そう言い、ルカはふわりと優しく微笑んだ。
並んでいる間に見ていたのだろう、走ったのはこのカップに乗るためだったのか。
……つくづく可愛らしいな、この人は。
純粋で優しくて、危なっかしいところもあるが強くて。
見ているだけで癒され、傍に居るだけで満たされる。
そんな人間、彼女以外にいない。
「がく、回し……何見てるの?私の顔何かついてますか?」
「……ずいぶんとまあ幸せそうだな」
「幸せですよ?貴方がいれば私はいつでも幸せです!」
「…………っ」
……時々、こちらが恥ずかしくなるくらい素直すぎるけれど。
「どうしたの?」
「……回すぞ」
「え?……きゃっ!」
誤魔化すようにハンドルを大きく回し、そのままぐるぐると回転させる。
音楽に合わせてカップが回り、風景が幾度も繰り返す。
……ただ回るだけで面白くもなさそうだったが、これはこれで結構楽しいかも知れない。
風になびくルカの髪を見ながらそんなことを思った時。
「楽しいですねこれ!」
「……え、ちょ、おい」
「うふふ」
ルカがハンドルを取った。
いや別に取るのは良いんだが、これはちょっ、と、
「回しすぎだ!」
「えー?聞こえないですー」
「止めろ!回し、……おい!」
音楽とハンドルの轟音に遮られて声が届かない。
止めようにも回転の力が強すぎて体を起こせず、手が届かない。
ちょっと待て、これはどうしたら良い。
ブレーキかなんか無いのか、あと何秒回ってるんだ、なんか段々、気分、が、
「あらもう終わり?もっと乗ってたいのに……どうしたのがく」
「……………………」
きょとんとした声で問いかける彼女に答えることも出来ずに、私は係員に抱きかかえられてベンチに連れて行かれた。