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(ワンピース)

ガチャガチャと金属のぶつかり合う音がする
ここはウソップ工場本部
その工場の主である長鼻の少年に、少女が気怠げに話しかける
『ね〜ウソップ〜』
忙しなく手を動かしながらも、少女の声にウソップは応えてやる
「何だー?」
『……』
「……」
『……』
「……」
沈黙
呼ぶだけ呼んでおいてその次が続かない
『な〜ウソップ〜』
「……だから何だよ」
そう、かれこれ30分はこのやり取りが繰り返されているのだ
手を動かしているから気にならないのか定かではないが、やられたら誰でもイライラしそうなやり取りをよく続けていられる

しかし、流石にこの繰り返しに飽きたのか、漸く気がついたのか、ウソップが大きな溜息を吐く
「お前なァ、さっきからおれの名前だけ呼んで一体何だってんだ??」
『……そうなんだよ、私ウソップに何か言わなきゃいけない事があったんだよね、何だったかな〜〜』
どうやらただ名前を呼んでいたわけではなく、ちゃんと用事があっての事だったらしい
だが、その肝心の用事を本人が忘れてしまっている
「こんだけ呼んどいて何だよそりゃ」
うーーんと首を傾げ腕を組む少女を無視し、再び作業を開始する
床と水平になるくらい首を傾けた少女が、ぼうっとその手元を眺める
思い出そう思い出そう、としていた頭はだんだんと彼の手元に集中してしまう
そうなってしまえば、もはや何をしようとしていたのかすら思い出せなくなっていた


30分経過

作業がひと段落ついたのか、ウソップが腕を頭上に上げ、伸びをする
肩を軽く回し、ふと目の前に座っていた少女の存在を思い出す
見れば少女は、30分前と同じ姿勢のまま固まっていた
流石にギョッとしたウソップは彼女の目の前で手をひらひらと振る
「お、おーーい……大丈夫か?」
『……』
「おーい?」
『……っは!』
「ひょえっ」
急に動き出した少女に驚いたウソップは素っ頓狂な悲鳴を出してしまう
『ああ、ウソップか、ごめんごめんボーッとしてた』
ケラケラと笑う少女に恨めしげな視線をジトリと送り、机の上を片す

「で、思い出したのかよ?」
ある程度片付けが終わったところで、30分前の話題に戻る
ウソップ本人も少女が忘れている何かが気になっているのだ
『?何が?』
しかし、少女の方は用事を思い出そうとしていた事も忘れているらしく、肩凝ったーなんてぼやいている
「お前おれに何か言わなきゃいけない事があるって言ってたろー」
思わず脱力してしまったウソップは、膝をパキパキと言わせながら立ち上がる
「気になるだろーが!飯食って来るからそれまでに思い出しといてくれよー」
そう言って右手をドアノブに掛け、左手を上げ、後ろの少女に手を振る
ウソップがドアを開けようとした瞬間

『それだァーーーーーーっ!!!!』
「ぎゃァアアあーーーーっ!!!!」

一際大きな叫び声がふたつ、船内に響き渡る
本日2度目のびっくりにウソップは白目を剥いている
ウソップを驚かせた当の本人と言えば、スッキリした表情でスキップしながら部屋を出て行く
『いや〜やっと思い出したよ〜そうそう!サンジからご飯だって呼ばれてたんだった〜』
去り際に、壁に縋り、びっくりした表情のまま意識を飛ばしているウソップの肩を叩く
『じゃ!そういうわけだから!ちゃんと伝えたからね〜!』
鼻歌交じりで廊下を駆けていく少女の背中に向けて、ウソップが弱々しく呟く
「それだけかよ……」



-ど忘れ-
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