壱
軽く欠伸をしながら、手早く通学の準備を整えた結有(ゆう)は部屋のカーテンを開けると小さく眉を潜め、溜め息を吐いた。
(
……嫌な感じ)
窓越しに見える昨夜から降り続く雨に憂鬱を隠せない。こんな日はいつも何か悪いことが起きるからだ。
(あの時も
……)
あの時と同じ激しい雨は、結有が記憶の底に封じたものを引きずりだす。
暖かく優しい日々が永遠に喪われたあの日の記憶を
…… 結有が自分の記憶に溺れかけたとき、ダイニングテーブルに置いていた携帯がけたたましい音を立てて鳴った。
記憶の残滓を払うように軽く頭を降り、テーブルの上で鳴り続ける携帯を取り通話ボタンを押す。
『おっせぇ!何やってんだ!』
ボタンを押すと同時に、幼なじみである結城 翔護(ゆうき しょうご)の怒声が飛び出した。
「珍しいわね、こんな早くに起きたんだ」
『珍しいは余計だっつうの。それより、白鳥公園にすぐ来い!』
「公園? なん『いいから、さっさと来いっ!』
……はぁ」
自分の言いたいことを言って電話を切った翔護に溜め息を吐きながら、鞄を手に取り戸締まりをすると降りしきる雨の中を足早に公園へと向かった。
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