彼と私の恋愛事情
「飛鳥、」
彼ではない声が、私を呼んだ。
「椋くん、ですか?」
振り返れば、予想通りの姿があった。
「君は、幸せかい?」
あの少年に愛を捧げ続けて。
後の問いは何度が訪ねられているので、嫌でもわかった。
確かに、彼は私を見てはくれていない。…彼女を思い続ける彼には。
「幸せ、ですよ。彼が…鍼は私の前にいますから。」
そう、あの時みたいにいなくなったりなど、していない。
彼は、私の前にいてくれる。
「あっそ。それならいいさ。」
溜息と共に吐き出された言葉はどこか諦めを宿していて。
「それより椋くん、玲くんの警護はよろしいのですか?」
「!あぁ…祐嬢ちゃんとショッピングだとさ。
うちのSPを10人もつけてある。抜かりはない。」
淡く微笑んだ椋くんは踵を返してドアノブに手をかけた。
「行くんですか?」
「ヤツの気配を感じた…ヤツは俺んこと、嫌いだからな。お暇すろよ。」
それじゃ。
きぃ、という音と共に消えた彼はそのまま窓から飛び降りた様だ。
とす、と着地音がした。
さぁ、紅茶の用意でもしよう。
もうすぐ、愛しい彼の登場なのだから。
(彼と私の恋愛事情)
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