the valley(ヒロ円)<切甘>
愛が欲しくて
ただ、愛が欲しくて
でも、
手は伸ばしても届かなくて
だから、だから…
悟ったんだ。
「もう、後戻りはできないんだ」って。
あの頃みたいに、
笑いあう、なんてことはできなくて。
泣き出しそうな君の顔を瞳に焼き付けて
不意に視界が霞んで
「え?」
溢れたのは…
傷つく君に背を向けて
もう二度と
君は笑いかけてくれないと
「ヒロト!!」
星空だけだった視界に、茶とオレンジが混じる。
「円堂、くん…?」
「どうしたんだ?」
…隣に、彼がいる。
僕
あの日、陽花戸中で、<基山ヒロト>がグランであることを明かした日。
「嘘だろう!?」そう叫んだ円堂くんに、かける言葉は見当たらなくて
彼への思いと、父さんへの忠誠。
その間で板ばさみになって囚われた。
そして、父さんの全てが終わって、彼と別れた時。もう会えないんじゃ、と恐怖に駆られた。
なのに…
彼は隣にいる。
もう、敵になることはないだろう。
仲間、として一緒にいられる。
少し、<仲間>じゃ物足りないけど、ね。
「いや、この前までを振り返ってね。」
結局、彼にこの思いを隠すように笑うしかない。
「ヒロト…」
あぁ、そんな泣きそうな顔をしないで。
僕が助けたくなるから。原因もまた、僕なのに。
「大丈夫。瞳子姉さんもいる。それにみんなも。」
「あぁ!ヒロトも仲間だからな!!」
チクリ、と胸が痛む。
わかってらじゃないか、<仲間>だって。
でも、僕は違うんだ。僕だけを見ていて欲しくてかまらない。
伝えなきゃ、他の誰かに奪われるより早く。
「円堂くん、」
「ん?」
「好きだよ、君のことが。」
一瞬きょとんとした顔が、まぶしい位の笑顔に変わり、
「俺もヒロトのこと、大好きだぜ!!」
(少し、違うんだけどな、)
(でも今は、このままで。)
- 4 -
[*前] | [次#]
ページ: