カタツムリの悲劇(request)
(性転換能力持ち主人公)

 僕はパッショーネのアジトに訪れていた。非常に、気が重い。
 はぁ、と軽くため息をつけば、兄であるメローネがにやにやと笑う。
「あのさぁ、兄貴。その気持ち悪い顔、やめてくれない?」
「俺は生まれたときからこの顔だぜ、name。…なんでため息なんかついてんのさ」
「わかるだろ、お前。…ジョルノのことだよ」
「良いことだろ、ギャングのボスに見初められるなんてさ!」
 血の繋がりのない兄弟でそんな会話をしながら、階段を上る。もう少ししたら、ジョルノの待つ部屋についてしまう。
 …仕事の報告をしなければならないのは分かる。だが、今すぐにでも逃げ出してしまいたい。
 リゾットは次期暗殺チームのリーダーを育てるため、だなんて尤もらしいことをいうが…。泳ぐ目線と額から伝う汗を見れば、ジョルノに頼み込まれて、僕を報告の仕事につけたのが一目瞭然だ。
 気が重い。
「…兄貴、代わりにいってきてよ」
「嫌だね。前、それをしたときに、殺されるかと思ったんだぜ? そもそも、俺が居ることすら不満みたいだし」
「可愛い妹のお願いが聞けないの!?」
「そんな成りで言うことか? 今は妹じゃなくて、可愛いげのねぇ弟だし」
 そう言ってメローネは笑う。今、僕はスタンドの力を借りて、男の姿になっている。
 僕のスタンドは、自分や回りの人間の性別を自由自在に操ることが出来るのだ。
「助けて欲しいなら、可愛い妹の姿で、『たすけてぇ、おにいちゃん』って言えよ、name」
「死ね、糞兄貴」
 そういいながら、僕はジョルノの部屋のドアをノックする。ノック音に被せるように、中から「どうぞ!」と明るい声が聞こえた。
 …その声の明るさに反比例し、僕の心は憂鬱になっていく。
 ドアを開ければ、ジョルノがにこやかな顔で待っていた。
「待っていましたよ、name」
「あ、じゃ、これ報告書なんで。アリーヴェデルチ、ボス! 二度と会うことのないように!」
 ジョルノの机に報告書の束を投げ、僕は颯爽と部屋を出ようとした。が、彼のスタンドに腕を捕まれて、部屋の中へ戻される。
 メローネの噛み殺した笑い声が、耳障りだ。
「待て待て待て。誰が帰って良いといいましたか? 貴方はこの後、僕のディナーに付き合うんです」
「……嫌です」
「ボス命令です」
「職権濫用だ!!」
 そう叫びつつ、僕はメローネに助けを乞う。メローネは水槽に飼われている亀とお話し中だ。死ね、糞兄貴。毒蛇にでも噛まれてしまえ。
 ちらりとジョルノを見やれば、今日こそは、という目付きで僕のことを見ていた。
「職権濫用? ええ、上等ですよ。さぁ、僕のいうことを聞きなさい」
「もうやだぁ……」
「それにname。前、言いましたよね? あなたのお兄さんは連れてこず、女の姿で来るようにと」
 確かに言った。だが、ホイホイと無防備な状態でこの男の前に現れるわけにはいかないのだ。
 誰も連れてこず、女の姿で訪れでもしたら、この部屋に直結したジョルノの寝室に運び込まれて、僕の貞操は花と散る。
 …というか、一番最初にそれをされた。なんとか貞操を死守することは出来たが…次はわからない。
「…メローネも懲りませんね。シスコンなんですか? 二度とnameの報告に着いてこないように、と言いましたが?」
「嫌だなぁ、ボス。nameがブラコンなんだよ。俺はnameに頼まれて嫌々ついてきてるだけさ」
「誰がブラコンだって? ヘドが出るぜ、糞兄貴」
「…あ、お前、絶対助けてやんない。…ねぇボス」
 メローネが亀からジョルノの方に顔を向ける。その笑みは、メローネ独特の、”ヤバイこと”を考えているときの顔だ。
 メローネがこの顔をしているとき、私は大抵ろくなことにならない。
「なんでしょう?」
「約束破っちゃったお詫びに、nameの弱点教えるよ。スタンドを解除するコツは…キスだ」
 さらりと人のスタンドの解除方法を口にするメローネ。背中に冷や汗が垂れ、気が遠くなる。
「糞兄貴!! お前、絶対殺す!! リゾットに止められても、殺す!!」
「なるほど、わかりました!! 感謝しますよ、メローネ」
「じゃ、俺は帰るぜ。…name、兄貴は敬うもんだぜ」
「ぐぅうう……」
 そして颯爽と部屋から立ち去るメローネ。もうダメだ。さようなら、僕の処女。
 ジョルノは僕の方へ向き直り、にこりと笑った。その顔に、背筋が粟立つ。依然スタンドは僕の腕をつかんだままだ。
 逃げようにも逃げられない状態。こういうときは、自分のスタンドの非力さを憎んでしまう。
「name、僕とキスしましょう」
「死んでも嫌だね!!」
「…そうですか。実はね、name」
 そう、ジョルノが言葉を繋げる。その表情は慈愛に満ちていて、うすら寒くなった。
 ごくり、と生唾を飲み込む。最悪だ、この状況。
「僕、男もイケることに気がついたんですよ」
「…は?」
「あなたがキスをしたくない、というならしょうがないですよね。…こちらを使うしかないようです」
 そういって、ジョルノは僕の尻の方へと手を伸ばした。
 もうだめだ。頭がくらくらしてきた。前の処女か、後ろの処女か。どちらかを捧げなければ、この男は納得しない。
「さぁ、どうしますか? 僕はどちらでも構いませんよ」
「………もういやだぁああ!!」
 寝室へと引きずり込まれる僕の断末魔が、静かな部屋にこだまする。





 その夜、暗殺チームのアジトでは、メローネとnameの熾烈な殴り合いが繰り広げられたそうだ。



end.
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