きっかけ-3



 目を覚ますと、見知った天井と見知った顔がこちらを覗き込んでいた。
 その顔は怒り心頭…例えれば般若か何かだった。
「……name」
「おはよう」
 怒気の含まれた刺のある声音。
 起き上がって窓を見やれば、昼光が差し込んでいる。確か、最後に時計を見たときはとうに深夜を回っていたはず、だ。
 いや、そんなことを考えている時じゃない。
「……悪い」
「最低」
「…すまん」
「変態」
「………」
「本当……最悪…」
 そう言うとnameはボロボロ泣き始める。泣かせたのは俺以外にいまい。
 溢れる涙を拭ってやる。nameは抵抗もせず、ただ泣き続けるだけだった。
「リゾットは色々と溜め込みすぎだよ…なんで私がこんなに心配しなくちゃいけないの?」
「……俺のことは、気にしないでくれ。本当に悪かった」
「気にするよ! ばっかじゃないの!?」
 nameがベッドで拳を殴る。ベッドの中でスプリングのきしみが反響している。
 怒った泣き顔。それに良心が苛まれる。
 後悔したところで、遅いが。
「……私と一緒に暮らそう、リゾット」
「…は? いや、ちょっとまてお前、なんでそうなる」
「だって見てないと不安だから!」
 想像の斜め上を行く言葉に、再び意識が遠のいた。
 そこまで心配をさせていたのか、と思う反面、自分が情けなくなる。いい年した男が、年下の女に言われる言葉ではない。
「あ、あのな…」
「なに? 反論するつもり?」
「………」
 キッと睨みつけられる。無論反論などできなくなってしまった。
 色々と言いたいことがあるが、それら全て飲み込みざるをえない。
「…わかった」
「本当…? ちゃんと私の言うこと聞く?」
「ああ、聞く聞く」
 俺の答えに満足したようで、nameは嬉しそうに笑った。
 …安堵と共に、一抹の不安も訪れる。
 警戒心が乏しくお節介なnameは、いつかタチの悪い男に漬け込まれて身を滅ぼしてしまいそうだ。
 俺が守るべき、なんだろうな。
 俺の心配をよそに、nameは嬉しそうだ。その人の気を知らない笑顔に、俺も笑ってしまう。



 こうして、俺とnameの同棲生活は始まった。
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