(『とある情交に至るまで』の続編)
深い睡眠から意識が浮上し、夢うつつの間際に私はいる。
気だるい体、意識。寝心地の良いベッド。まだまだ、私は現実に帰る気にはなれない。
私は、隣にある人の温もりに気が付いて、まだ半分寝ぼけたまま、そのぬくもりをかき寄せる。
閉じた瞳の奥で浮かんでいる、その温もりの主は色欲に忠実な暗殺者。
心地の良いまどろみの中、私は久々に感じる他人の体温を堪能する。
こうして一緒に寝るのは何日ぶりだろう?
「……name」
でも鼓膜を揺らす声は、その人のものじゃなくて。
重い瞼を持ち上げて、現実に目を向ければ、見慣れた同僚の顔。
………いや、違う。昨日から彼は私の“浮気相手”になったんだ。
「ギアッチョ……」
彼の名前をつぶやいて、脳裏に浮かんでいた恋人の姿をかき消す。
ギアッチョの指が私の髪の毛を梳く。
こんな風に『愛されている』と実感したのは久しぶりだ。
普段は怒りっぽく、すぐに物にあたるギアッチョからは想像できないほど、優しい手つきで私の頭をなでる。
あんまりにもその行動が優しくて、思わず泣きそうになってしまう。
「………そういやーよぉ」
「ん? なに?」
「携帯、すげー鳴ってたぜ」
「嘘。早く言ってよね!」
もしかしたら、急な仕事が入ったのかも……。
そんなことを小さくつぶやきながら、ベッド脇に脱ぎ捨てられた上着から携帯を探り出す。
目にたまっていた涙は、すっかり引っ込んでしまった。
ギアッチョはその様子を見ながら「仕事じゃねーだろ」と言った。
「なんでそんなこと言えんのさ」
「…着信音がよぉ」
「は? 着信音?」
「……まぁ見てみればいいんじゃねーのか?」
変な奴。そう思いつつ、携帯の着信履歴を見ようとした瞬間。
……甘ったるいラブソングが、携帯から流れる。
画面には『メローネ』と表示されている。
タイミングの良すぎる出来事に、思わず私は固まってしまった。
助けを求めるようにギアッチョを見れば、私に背を向けて寝ている。
「…………も、しもし?」
さんざん迷ってから、通話ボタンを押す。
電話の向こうからは、街の雑踏が聞こえる。……電話の主は、黙りこくったまま。
その沈黙に、背筋を逆なでされる。
『……もしもし? name?』
「なに……? どうしたのメローネ」
『俺、すっげー電話したんだけど? 寝てた?』
「あ、ああ、うん。寝てた。ごめんね」
普段と同じテンションで、質問をしてくるメローネ。
きっと、気が付いていない。
今、私がどこにいて、どんな格好をして、誰とベッドを共にしているのかを。
罪悪感に、心臓が少しだけ締め付けられる。
『あ、でさ、悪いんだけど、今から俺の家こない?』
「あれ? 今日はなにか用事があるんじゃなかったの?」
『んー、それがさぁ、その“用事”ってオジャンになってさ』
……用事、ね。
その“用事”が何かを、私は知っている。そして多分メローネは、私が気が付いていることに、気が付いている。
なのに、敢えて私の嫉妬心をあおるように、浮気の事実をチラつかせながらしゃべるのだ。
それが、たまらなく―――悔しい。
「………ッ」
ポタリ、とシーツに小さなシミができる。視界が、溺れたように歪み、息苦しくなる。
泣いていることを、メローネに悟られたくなくて、精一杯平常を装う。
「……うん、わかっ―――」
私がメローネの提案に返事を返そうとしたその時。
「name、代われ。……もしもし、メローネ」
『あれ? ギアッチョ?』
ギアッチョが私の手から携帯をかすめ取り、自分の耳に当てる。
通話口から漏れ聞こえるメローネの声が、どことなく楽しそうだ。
急なことに反応しきれずに、私はぼんやりと目の前の光景を眺める。
これから、いったいどうなるんだろう………?
私はただ、息苦しさから、声を押し殺して泣くしかなかった。
深い睡眠から意識が浮上し、夢うつつの間際に私はいる。
気だるい体、意識。寝心地の良いベッド。まだまだ、私は現実に帰る気にはなれない。
私は、隣にある人の温もりに気が付いて、まだ半分寝ぼけたまま、そのぬくもりをかき寄せる。
閉じた瞳の奥で浮かんでいる、その温もりの主は色欲に忠実な暗殺者。
心地の良いまどろみの中、私は久々に感じる他人の体温を堪能する。
こうして一緒に寝るのは何日ぶりだろう?
「……name」
でも鼓膜を揺らす声は、その人のものじゃなくて。
重い瞼を持ち上げて、現実に目を向ければ、見慣れた同僚の顔。
………いや、違う。昨日から彼は私の“浮気相手”になったんだ。
「ギアッチョ……」
彼の名前をつぶやいて、脳裏に浮かんでいた恋人の姿をかき消す。
ギアッチョの指が私の髪の毛を梳く。
こんな風に『愛されている』と実感したのは久しぶりだ。
普段は怒りっぽく、すぐに物にあたるギアッチョからは想像できないほど、優しい手つきで私の頭をなでる。
あんまりにもその行動が優しくて、思わず泣きそうになってしまう。
「………そういやーよぉ」
「ん? なに?」
「携帯、すげー鳴ってたぜ」
「嘘。早く言ってよね!」
もしかしたら、急な仕事が入ったのかも……。
そんなことを小さくつぶやきながら、ベッド脇に脱ぎ捨てられた上着から携帯を探り出す。
目にたまっていた涙は、すっかり引っ込んでしまった。
ギアッチョはその様子を見ながら「仕事じゃねーだろ」と言った。
「なんでそんなこと言えんのさ」
「…着信音がよぉ」
「は? 着信音?」
「……まぁ見てみればいいんじゃねーのか?」
変な奴。そう思いつつ、携帯の着信履歴を見ようとした瞬間。
……甘ったるいラブソングが、携帯から流れる。
画面には『メローネ』と表示されている。
タイミングの良すぎる出来事に、思わず私は固まってしまった。
助けを求めるようにギアッチョを見れば、私に背を向けて寝ている。
「…………も、しもし?」
さんざん迷ってから、通話ボタンを押す。
電話の向こうからは、街の雑踏が聞こえる。……電話の主は、黙りこくったまま。
その沈黙に、背筋を逆なでされる。
『……もしもし? name?』
「なに……? どうしたのメローネ」
『俺、すっげー電話したんだけど? 寝てた?』
「あ、ああ、うん。寝てた。ごめんね」
普段と同じテンションで、質問をしてくるメローネ。
きっと、気が付いていない。
今、私がどこにいて、どんな格好をして、誰とベッドを共にしているのかを。
罪悪感に、心臓が少しだけ締め付けられる。
『あ、でさ、悪いんだけど、今から俺の家こない?』
「あれ? 今日はなにか用事があるんじゃなかったの?」
『んー、それがさぁ、その“用事”ってオジャンになってさ』
……用事、ね。
その“用事”が何かを、私は知っている。そして多分メローネは、私が気が付いていることに、気が付いている。
なのに、敢えて私の嫉妬心をあおるように、浮気の事実をチラつかせながらしゃべるのだ。
それが、たまらなく―――悔しい。
「………ッ」
ポタリ、とシーツに小さなシミができる。視界が、溺れたように歪み、息苦しくなる。
泣いていることを、メローネに悟られたくなくて、精一杯平常を装う。
「……うん、わかっ―――」
私がメローネの提案に返事を返そうとしたその時。
「name、代われ。……もしもし、メローネ」
『あれ? ギアッチョ?』
ギアッチョが私の手から携帯をかすめ取り、自分の耳に当てる。
通話口から漏れ聞こえるメローネの声が、どことなく楽しそうだ。
急なことに反応しきれずに、私はぼんやりと目の前の光景を眺める。
これから、いったいどうなるんだろう………?
私はただ、息苦しさから、声を押し殺して泣くしかなかった。