朝起きると身体中が痛かった。
nameは覚醒しきっていない脳で体を動かし、ベッドから這いずり出た。
隣では、すやすやとフーゴが寝ていた。
この寝顔を見ると、あの事は全て夢だったのではないのか、と思ってしまう。
彼の頬に手をあて、nameは目を細めた。
私はフーゴを愛している…。
揺るぎない事実だ。
逃げられない現実だ。
nameの瞳から、一粒の涙が流れる。
「……………name?」
「あ……ごめんね。起こしちゃった?」
フーゴが体を起こし、nameを見つめる。
優しげな瞳に、nameの口許が緩む。
そう、あれは夢なのだ……。
午後。
nameはブチャラティと任務の打ち合わせをしていた。
打ち合わせが終わり、家に帰るとフーゴが真っ暗な玄関先に立っていた。
表情はよくわからないが、nameはなにかよくない雰囲気を読み取る。
「……………ただいま」
nameは極めて明るく帰宅の挨拶をする。
それでもフーゴからの返事はなかった。
ドアを閉めて、フーゴと向き合う。と、勢いよく拳がnameに向かって飛んできた。
その拳は、nameの頬に叩き込まれる。
「っ…………!」
多少の痛みには耐えられる。しかし、これはなんでも痛すぎる。
nameは体勢を崩し、玄関のドアに背中を打ち付けた。
「どこに、いってたんですか?」
「………任務の打ち合わせだよ」
今度は蹴りだ。
こうなったらフーゴが落ち着くまで暴力は止まない。
nameはぎゅっと体を丸めて攻撃に耐えている。
フーゴはそれが気に入らないらしく、nameの髪の毛をつかんで顔をあげさせた。
「嘘ついてんじゃねぇよ!」
「つ…ついてない!!」
「黙れバカ女!」
がん、と頬に衝撃。
nameの意識が一瞬飛びかける。目の前がチカチカし、フーゴが霞む。
それからしばらく殴られ続け、nameはいよいよ気を失った。
目を冷ますと、やはり身体中が痛かった。
ただ朝と違っていたのは自分がソファに寝ていて、フーゴに膝枕をしてもらっていたことだ。
「…大丈夫、ですか?」
「…………うん」
フーゴが泣きそうな顔で、nameを心配する。
nameは安心させるために嘘をついた。
大丈夫じゃない。
きっと、今の自分はひどい顔をしている………。明日、またチームの仲間たちに心配されてしまうだろう。
でも、それでもnameは嘘をつく。
「ごめんなさい…」
「大丈夫だって、フーゴ…」
フーゴがnameを抱き抱え、涙声で謝った。身体中が痛かったが、声に出さず耐える。
フーゴの頭をなで、大丈夫だよ、と呪文のように唱え続ける。
この優しさがダメなのだ。
わかっている。
nameはフーゴの頭を撫でながら、考える。
フーゴの、この優しさも。
自分の、傷つけまいと許してしまう優しさも。
全部全部。
私達は破綻している。
でも。
「name、愛してます…………だからっ…」
「…うん。ずっと、一緒にいるよ」
私はこんな彼を愛してしまっているんだ。
しょうがない。
(歪んだ関係の痛みさえも、全部)